次なる事業の柱を発見しようと、多くの企業が多大な資金と労力をかけて新しい取り組みを行っています。はたして、それはうまくいっているのでしょうか。そこで、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2022年1月号では、「ブレークスルーイノベーション」と題した特集を組みました。
モデルナのワクチン開発は
けっしてまぐれ当たりではない
次なる事業の柱を発見しようと、多くの企業が多大な資金と労力をかけて新しい取り組みを行っています。はたして、それはうまくいっているのでしょうか。既存事業の改善や小粒な事業創造に留まってはいないでしょうか。今号の特集は、不可能を可能とし、社会に新たな価値をもたらす「ブレークスルーイノベーション」がテーマです。特にイノベーションの種(シーズ)を見つけて、その芽を育てる方法とその再現可能性に焦点を当てました。
企業がイノベーションを起こすには、時代の流れをいち早くとらえ、新たな市場をつくる方法が有効です。ですが、そのトレンドが顕在化してから動いたのでは遅く、競争優位は築けません。特集1番目の「イノベーションの『兆し』を見つけ出す方法」では、ボストン コンサルティング グループなどの執筆陣が、トレンドになる前の微弱なシグナル「アノマリー」を見極める方法と、イノベーション実現のための4つのステップを提示します。
特集2番目の論文は、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に成功した、モデルナの共同創業者兼会長であるヌーバー・アフェヤン氏と、ハーバード・ビジネス・スクールのゲイリー・ピサノ教授が執筆しています。メッセンジャーRNAワクチンの開発はけっしてまぐれ当たりなどではないと断言し、ブレークスルーイノベーションをもたらす手法「エマージェント・ディスカバリー」とその2つの大原則を明らかにします。
特集3番目は、ハーバード・ビジネス・スクールのリンダ・ヒル教授らによる「イノベーションは意思決定プロセスの変革から始まる」です。イノベーションの実現においては、アイデアや実験方法、データ収集など、数多くの場面で素早い意思決定が求められています。にもかかわらず、多くの企業がその判断を速やかに下せていません。ファイザーのグローバルクリニカルサプライにおける事例をもとに、リーダーシップ研究の見地から、アジャイルの実践により組織の創造性を高める方法を述べます。
特集4番目は、iPS細胞による網膜再生に世界で初めて成功した、眼科医であり、ビジョンケア代表の髙橋政代氏へのインタビュー記事です。理化学研究所のプロジェクトリーダーでもあった髙橋氏は、「すべての患者さんのために、あらゆる解決策を」というビジョンを掲げて起業し、研究と治療、患者ケアまでを一気通貫にする研究、活動を行っています。髙橋氏の約25年にわたる軌跡から、不可能を可能にした考え方に迫りました。
特集5番目は、いまユニコーン企業として、大きな注目を集めるSpiber(スパイバー)の関山和秀氏による「タンパク質を進化させ、素材革命を起こし、持続可能な未来を創造する」です。学生時代にクモの糸の研究を始めた関山氏が数々の困難な壁を乗り越えて、素材革命へと導く過程を追体験できます。R&Dにかけるその情熱は皆様を鼓舞するはずです。
特集6番目は、遺伝子検査ビジネスで一躍有名となったスタートアップ、23アンドミーの挑戦を記載しています。非連続なイノベーションには、当局や規制との向き合い方が欠かせません。突然の規制強化にどう対処したのかをCEO本人が明かします。
このように、社会を変えるイノベーションを起こした事例が豊富に詰まった特集です。不可能と思われたことを可能とする革新のプロセス、その全貌をぜひご一読ください。(編集長・小島健志)