人間的であることの恐怖

 恐怖とは、人間であることの条件の一つだ。誰もが何かを恐れている。たとえ怖いもの知らずだと思われているリーダーも例外ではない。

 人間的なリーダーシップを考える時、英雄的なリーダーになることにキャリアの大部分を費やしてきた多くのエグゼクティブは、足元が崩壊するかのような感覚に見舞われる。

「職場で自分の感情や弱さを絶対に見せてはいけないと教育され、訓練されてきた」と、あるCEOは最近、筆者に語った。「それなのに、いまはそれを示さなくてはいけないのか。これこそ本当の革命だ」

 彼らの恐怖は、一般に3つの形態を取る。

 ●自分自身の感情とつながることへの恐怖

 自身の分析的な側面を駆使することに慣れた理性的なリーダーにとって、自分の内面を深く見つめることは恐ろしく、場合によっては危険にさえ感じられる。そこに何が見つかるのか不安で仕方ないのだ。自己探求は、今後の計画をひっくり返してしまう可能性もある。

 さらに恐ろしいのは、自分の真の姿をさらせば、周囲の自分に対するイメージが変わってしまうかもしれないことだ。自分が弱い存在だと思われたら、どうなるのか。統制力や権威、尊敬、そして愛までも失ってしまったらどうすればよいのかと、恐れているのだ。

 ●混沌への恐怖

 多くのリーダーは、仮に同僚同士がもっと個人的なレベルで結びつくようになったら、あちこちでグループハグやクンバヤの合唱が起きる可能性があり、実際の仕事に集中できなくなるだろうと思っている。

「感情はオフィスとは無縁だ」と、あるシニアエグゼクティブは筆者に語った。あらゆる問題を解決することがリーダーの役割ではなくなったら、どうやって組織の舵取りをすればよいのか。統制力を手放したら何が起きるのか。筆者の多くのクライアントは、こうした思考に陥った結果、安全網なしで空中ブランコに挑む曲芸師のような気持ちになっていた。

 ●失敗することへの恐怖

 多くのリーダーが、職場で感情の問題にどう対処すればいいかわからないと思っている。自分の感情と他人の感情の両方だ。

「もし私のチームの誰かが、新型コロナウイルス感染症で親や配偶者を亡くしたと言ったら、どうすればいいのか」と、あるクライアントは聞いてきた。「誰かが泣き始めたら、どうすればいいのか。何をすればいいのか。何を言えばいいのか。まったくわからない」

 心と魂で有効にリードするにはスキルが必要だが、それは、リーダーがこれまで頼りにしてきた左脳的なアプローチには見出せないものかもしれない。さらに悪いことに、成功することに慣れたリーダーは、自分が壮大な失敗をするのではないかと恐れている。

「私は昔ながらのやり方でリードして、成功してきた」と、あるエグゼクティブは筆者に言った。「新しいタイプのリーダーになるというアイデアは結構だが、私にうまくやれるだろうか」

 多くのエグゼィティブが、どうすれば人間的なリーダーになれるかと考えあぐねている。筆者の経験では、英雄的なリーダーから人間的なリーダーに変わるには、次に紹介する3つのステップを踏む必要がある。