
不妊症はけっして珍しいことではない。しかし、働きながら不妊治療を行う女性のうち、企業から適切な支援を受けられている人はごく少数ではないか。治療のために仕事を抜け出すことを後ろめたく思ったり、転職や昇進のチャンスをあえて見送ったりする人もいる。自分のキャリアを犠牲にすることなく、不妊治療を続けるためには、どうすればよいのか。本稿では、誰もが直面する3つの困難とその対処法を紹介する。
出産年齢にある女性の8人に1人が、妊娠したり、妊娠満期を迎えたりすることに困難を抱えている。すなわち不妊症は乳癌と同じくらい一般的に見られ、2型糖尿病よりも多い。
働く女性(と雇用者)は歴史的に、不妊がもたらす無数の課題に対処しようにも限定的なリソースしか持たなかった。筆者らは、女性が不妊治療とキャリアの両立するのを支援することで、このような状況を変えたいと考えている。
筆者らは『ハーバード・ビジネス・レビュー』の過去の記事で、人生でこの段階を迎えた従業員を、マネジャーが適切に支援するためのリソースを明らかにした。本稿では、不妊治療を受けている女性に焦点を絞り、よりよい対処法に関する助言を研究に基づいて行う。
筆者らの研究では、専門職に就く女性40人の話を聞いた(その一部を本稿でも紹介する)。この40人は最近、フルタイムで働きながら不妊治療を受けた人たちだ。彼女たちにとって何が難しく、何が助けになったかという経験に基づき、不妊治療中の人は誰もが直面すると思われる3つの大きな困難に対処するための手引を示す。
診察予約を管理する
「不妊治療を受けるために、毎日でなくとも1日おきにはクリニックに通わなければならない。(中略)午前7時に仕事を始めなくてはいけないのに、クリニックの予約が午前7時に入ると、チームとの調整や、3~4つのミーティングの調整が必要になった。要するに、1日のスケジュールを完全に組み直すということだ。必然的に、出社時間は10時頃になる。まさに、恥ずかしくて顔を上げられない経験だった」
不妊治療は身体的・感情的な負担が大きいだけでなく、時間を取られるうえに診察予約を柔軟に変更できないことが重大な課題になりうる。不妊治療を受けるためにクリニックを頻繁に訪れなければならず、予期せぬ訪問が必要になることもある。
たとえば、早朝のモニタリングは血液検査や超音波検査、看護師とのカウンセリングなどが行われる。診察後は通常、数時間後にクリニックから電話があり、薬剤について指示を受けたり、次回の診察日を告げられたりする。「次回」が翌朝ということもある。
筆者らの研究では、働きながらこうした診察予約をこなすためには、以下の対策が助けになることがわかった。
・早朝は仕事の予定を入れない:あなたにスケジュールを決める権限があるなら、ミーティングはなるべく午前10時以降に入れよう。朝にモニタリングの予約が入っている日は特にそうだ。
・クリニックを厳選する:もし可能であれば職場や自宅から遠くないクリニックを選ぼう。働きながら不妊治療を受けるうえで、クリニックまでの往復に時間をとられるのは最も避けたい。多くの女性は、早朝から診察を受け付けて、患者の仕事のスケジュールに配慮してくれるクリニックを探す。クリニックのおすすめを人に聞くのは難しいかもしれないが、まずはクリニックに電話をし、感触を探ってから決めてもよいだろう。
・可能なら在宅勤務する:筆者らが話を聞いた多くの女性は、コロナ禍に在宅勤務が導入されたことで、仕事をしながら不妊治療を受けやすくなったと話した。「治療のために職場にいない」ことが目立たなくなったからだ。クリニックからリモートで仕事をしたり、ミーティングに参加したりしたという女性までいた。
・アライを見つける:信頼できるマネジャーや同僚は、とてつもなく貴重な財産になりうる。あるテクノロジー企業でシニアコンサルタントを務めるアニータ(仮名)は、仕事と治療の両立に何カ月も苦労した末、上司(男性マネジャー)に不妊治療を受けていることを打ち明けた。すると、上司はとても支援的で、アニータの出張がIVF(体外受精)のサイクルとぶつかってしまった時は、代わりに出張に行ってくれる人をすぐ見つけてくれた。労働安全衛生の専門家であるサマンサ(仮名)も、同僚に不妊治療を受けていることを話したところ、ある研修のワークショップが採卵日と重なってしまった時、代わりに講師役を引き受けてくれた。
社内で自分のことを支援してくれると思う人に声をかけて、手引きや助けを求めよう。問題にぶつかった時、ともに対処法を考えてくれたり、あなたを擁護したりしてくれるかもしれない。