●新しい共通のアイデンティティを構築する

 人間は生来、同族意識を持っている。自分自身を身近なグループの一員として扱い、狭いアイデンティティに縛りつけているのだ。グループの外にいる人は「それ以外の人」とされ、信頼されにくい。

 クロスファンクショナルなつながりが強化されなければ、このような「私たちと彼ら」という考え方が強化される。一方で、より広く人と人とを結びつける新しい共通のアイデンティティを確立すれば、脳が新たな関係を再構築し、「彼ら」と見なした同僚を新しい視点で捉えることができる。

 ニューヨーク大学のジェイ・バン・バベル教授の研究によると、連帯して働くことで、脳はそれまで抱いていたバイアスから素早く解放される。脳イメージングを用いた実験では、特定のタイプの人に対するさまざまな潜在的バイアスが扁桃体に表れている被験者に、そのタイプの人が「あなたの新しいチームの一員だ」と伝えたところ、バイアスが劇的に減少した。

「私たち」として認識された仲間と密接につながるほど、外部の人は「彼ら」になってしまう。これを解決するには、「私たち」の定義を広げなければならない。

 筆者らはある組織で、不健全な同族意識を打破するために、組織の文化的健全性のさまざまな側面を担うクロスファンクショナルチームを設立した。チームは学習と教育、イノベーション、コミュニティ形成、ハイブリッドワークの健全性の向上などに取り組み、多様な職務や地域のメンバーで構成され、リソースと行動する権限が与えられた。幅広いパーパスを持つチームに一体感が生まれたことで、組織全体の結束力とコラボレーションが向上した。