
優秀なマネジメント人材を供給してきたビジネススクールだが、その成り立ちゆえに、MBAのカリキュラムは20世紀の自動車会社や工業会社の部門構造を模倣したものになっている。ファイナンス、会計、生産・業務管理、マーケティング、人的資産といった各領域に分割された状態だ。ビジネスの世界に大きな地殻変動が起き、上場企業のリストや時価総額ランキングの上位に歴史の浅いデジタルネイティブ企業が並ぶ中、このままでは21世紀のデジタル時代に即した企業ニーズに対応できるとはいえないと筆者らは主張する。本稿では、ビジネススクールで教えられている主要科目に何が欠けているかを論じ、カリキュラムの改革案を提案する。
米国の企業は、この40年間で劇的な変化を遂げてきた。現在、世界で最も価値の高い企業はマイクロソフト、メタ(フェイスブック)、アップル、アマゾン・ドットコム、テスラ、アルファベット(グーグル)だ。
ギガファクトリーを保有するテスラを別にすれば、これらデジタルネイティブ企業の最大の財産は、知識、有能な人材、サブスクライバーのネットワーク、そしてイノベーションだ。
これは20世紀の巨人、すなわちゼネラル・エレクトリック(GE)やUSスチール、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード・モーター、グッドイヤータイヤ、エクソンモービルとは異なる。これらの企業は、土地や建物、機械、倉庫、そして物理的なインフラを用いて、物理的な商品を生産している。
筆者らの試算では、21世紀の巨人であるデジタル企業のそれぞれの価値は、20世紀の巨人である工業会社の価値の平均と比べて少なくとも10倍以上あることからも、この地殻変動のマグニチュードがわかるだろう。
しかし、このストーリーはデジタル業界の巨大企業に限ったものではない。
現在、米国の証券取引所に上場している企業の80%は、1990年以降に上場している。しかも、非鉄大手のアルコアやドラッグストアを展開するウォルグリーンといった資産集約型企業とは異なり、民泊仲介業のエアビーアンドビーやライドシェア大手のウーバーのように、保有資産を最小限に抑えたデジタルネイティブである可能性が高い。
ビジネススクールのMBA課程は、経営学教育プログラムの典型であり、他のいかなる大学院課程に比べても、学位を取得してすぐ実務に入ることができるように、しっかりと訓練を受けたマネジメント人材を米国企業に供給してきた。
MBA課程のカリキュラムは現在、変わりゆく企業ニーズに対応すべく進化しているものの、今度も学位としての有効性を維持するためには進化のペースを加速する必要があると、筆者らは考えている。
さもなければ、インテュイット創業者のスコット・クックが指摘した状況に陥る危険がある。すなわち、「MBA取得者を採用した場合、根本から訓練し直さなければならない。彼らが学んできたことは、イノベーションを起こして成功する助けにはまったくならないだろう」。
最初期のビジネススクールの中には、工業や自動車会社のニーズを満たすために始まったものもある。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクール・オブ・ビジネスは、GM中興の祖であるアルフレッド・スローンの名前を冠しており、ペンシルバニア大学のウォートンスクールは、鉄鋼業で財を成した実業家ジョゼフ・ウォートンの名前にちなんでいる。
ビジネススクールのカリキュラムは歴史的に、ファイナンス、会計、生産・業務管理、マーケティング、人的資産といった各領域に分割して構成されてきた。この構造は、20世紀の自動車会社や工業会社の部門構造を模倣したものだ。