学習と適応を増幅させる

 創発的なデジタル戦略において、デジタル化の取り組みを活用し競合他社よりも速く進化するには、学習が必要だ。スターバックス社長兼CEOのケビン・ジョンソンにとって、同社のデジタルトランスフォーメーションを推進する重要な原動力は、大規模な学習をする力だ。

 スターバックスでイノベーションの速度を上げるには、学習と適応のアプローチが必要だとジョンソンは考えている。同社の現在のスローガンは、「100日以内にアイデアを実行に移す」だ。

 スターバックスのAIによるアンプリフィケーション(増幅)のアプローチは、コーヒーの小売店からデータドリブンのテクノロジープラットフォームとなるための変革を支えてきた。3万1000店舗で毎週1億人以上の顧客にサービスを提供し、米国だけでもモバイルアプリのアクティブユーザーが2480万人を抱える同社は、顧客の行動や好みに関する膨大な量の貴重なデータを集約するラーニングマシンを構築している。

 このプラットフォームの中核となるのが、同社のデジタルフライホイール戦略だ。それが効果的なリワードプログラム、簡素化された支払い方法、スペシャルオファーという形のパーソナライゼーション、迅速で便利な注文プロセスをつなぎ合わせている。

 スターバックスは、自社よりも優れた技術を持つ競合に先駆けて、モバイルでの注文や支払いにいち早く対応した。2011年には全米でモバイル決済を開始し、アップルが2014年にモバイル決済を始めた頃には、スターバックスはすでに米国でモバイル決済を毎週700万件処理し、モバイルアプリユーザーのデータベースを拡大させていた。2021年の第4四半期は、米国内における直営店の売上げの51%がスターバックスリワードの会員によるものだった。

 同社はさらに、拡大するモバイルデータを利用し、リワード、デジタル決済、モバイル注文によって、ユーザーを囲い込む力を増幅させた。スターバックスのAIエンジンは、顧客がどの時間帯に注文し、どのドリンクを好むかまで、あらゆるデータを処理する。これらのデータは位置情報、天候、季節などの他のデータと組み合わせられ、パーソナライズされたレコメンデーションやオファー、さらにはリワードポイントを獲得するクエストやチャレンジを提供している。

 このプラットフォームが生み出すデジタルエンゲージメントのレベルは、多くの実店舗が閉店を余儀なくされた新型コロナウイルス危機の際、特に重要となった。今日ではドライブスルーとモバイルオーダー&ペイ(MOP)を合算した取引が70%を占め、パンデミック前と比べて15%増加している。

 デジタルフライホイールは、学習を活用するスターバックの取り組みの一つにすぎない。同社はより広範なオペレーションモデルの一環として、AIとオートメーションを取り入れている。ジョンソンは言う。「日々の在庫管理や店舗の人員配置、研修の改善を自動化した当社の人工知能プラットフォーム『ディープブリュー』は、店舗の複雑さを軽減するように設計されたものだ」