コンピテンシーではなく
ケイパビリティに投資する

 予測不可能な未来に対して、あなたはどのような計画を立てるだろうか。直感に反するが、不確実性への最善の対処法は、慣れ親しんだ場所に退避することではなく、未知の世界を探求する能力に賭けることだ。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが最初に報じられた時、モデルナは心臓病、ジカウイルス、がんなどを対象とした複数のmRNA(メッセンジャーRNA)ベースの医薬品を開発していた。しかし、同社の創業者らは、mRNA技術がある用途に使えるのであれば、新しい用途に合わせて情報やコードを変更すれば、無数に利用できると考えていた。

 中国の科学者が新型コロナウイルスの遺伝子配列をオンラインで公開してから、モデルナがまったく新しい新型コロナウイルスワクチンを数カ月で開発・販売するという偉業を達成できたのは、このケイパビリティ中心のアプローチによる。

 企業はしばしば、ケイパビリティ(うまくできるかもしれないこと)ではなく、コンピテンシー(うまくできること)に投資する。これはある意味、典型的な「探索と深化のジレンマ」に似たトレードオフの関係にある。

 あなたは選択肢を選ぶ前に、どれだけの時間とリソースを費やして調査するだろうか。レガシーシステムをアップグレードすることは魅力的に思えるかもしれない。しかし、そのような還元主義的なアプローチは、探索のフェーズを早々に打ち切ってしまう危険性がある。そうではなく、将来の組織を、新たな可能性を秘めたオープンエンドのデジタルプラットフォームとして設計することができたらどうだろうか。

 モデルナの最高データ・AI責任者であるデイブ・ジョンソンに話を聞くと、同社はソフトウェアに似たmRNA技術のデジタルな特性に触発され、AI、アルゴリズム、オートメーションを核とした新しいタイプのデジタルバイオテック企業に生まれ変わったのだという。

「当社は大規模な前臨床のマニュファクチャリングスイートを構築し、科学者がオンラインのデジタルツールでmRNAを発注し、AIアルゴリズムを使って最適化し、それをハイスループットで超並列の、高度に自動化された小規模製造設備に送り、可能な限り迅速に製造できるようにした」と、ジョンソンは語る。

 モデルナがこれほど有能なのは、デジタルインフラを、複数のmRNAベースの治療薬を並行して追求するというビジネス戦略に合わせる能力があるからだろう。ジョンソンによると、同社はプラットフォームを全体論的に捉えている。完全なデジタルシステムとアルゴリズム設計ツールに投資し、非常に構造的かつ豊富な方法でデータを取得し、最終的にそれらのシステムとAIモデルを効率的で信頼性の高い生産環境に統合しているのだ。

 ジョンソンは新型コロナウイルスワクチンの迅速な開発について、「当社のデジタルプラットフォームによって研究エンジンを構築し、わずか42日間で薬剤をコンセプトから臨床グレードにすることができた」と話す。

「たいていの企業は、アイデアだけでなく、それを製造する方法も同時に発明するという、まったく異なるプロセスを経なければならない。私たちはこのプラットフォームを構築していたので、それを活用することができた」

 デジタルトランスフォーメーション計画の問題は、それが道筋ではなく、計画であるということだ。組織や市場は複雑な適応システムであり、細分化された要素の中には存在しない。プロセスをデジタル化したり、新しいソフトウェアを統合したりするだけでは再現できない、創発的な特性を持つ。

 それでもなお、還元主義的な確実性を求める態度を克服することができれば、デジタルトランスフォーメーションをボトムアップで実現するアプローチに美しい対称性を見出すことができる。結局のところ、機械学習システムそれ自体が自己組織化されたネットワークであり、そこから洞察、予測、レコメンデーションが生まれるのだ。

 業界に破壊をもたらそうとしている新興企業であろうと、みずからを再構築しようとしている伝統企業であろうと、創発的なデジタル戦略を採用することで選択肢を維持しつつ、物事が変化する時は、それが一夜にして起きる可能性が高いという事実を認識することができる。


"How to Navigate the Ambiguity of a Digital Transformation," HBR.org, November 29, 2021.