期待を再調整する

 コロナ禍に対する組織の一般的な対応、すなわちコスト削減措置やレイオフは、従業員にネガティブなメッセージを送り、不安や怠慢、無関心、生産性の低下、さらには離職と、おそらく組織にとって自滅的なサイクルを引き起こしてきた。筆者らの研究では、ロイヤルティや組織に対するコミットメントなど関係性の質が高い従業員、すなわち組織で最も価値のあるメンバーは、特にそれらの悪影響を受けやすい。

 期待を再調整するには、マネジャーと従業員との間に創造的かつ革新的な関係が構築されることを、組織として歓迎しているという姿勢を具体的に示す必要がある。重要なのは、雇用契約の内容ではなく、組織がどれだけ自分を支援してくれ、マネジャーが自分の上司としてどれだけ有能であるかを、従業員自身が感じられることだ。

 コロナ禍が落ち着きを見せていく中で、従業員に対する期待を再調整するためには、意図的なアプローチと従業員の積極的な参加が欠かせない。

 筆者らが、従業員が自分の働き方に関して雇用者と個別交渉し合意を得る、「アイディールズ」(i-deals)と呼ばれる事例の研究を行ったところ、これは従業員にとっても組織にとってもポジティブな結果が得られることが明らかになっている。アイディールズを通じて、従業員は自身のニーズや価値観、嗜好に合った働き方ができるようになり、組織としても生産性の向上や欠勤の減少といった恩恵を得ることができる。

 このような働き方のカスタマイズは、その性質も範囲も多岐にわたる。たとえば、同僚とは異なる始業・終業時間や時間外勤務の選択といったスケジュールの柔軟性を求める従業員もいれば、働く場所に関して個人の状況に応じた要望を伝える従業員もいるだろう。あるいは時代の流れに乗り遅れることなく、困難な課題に取り組み続けるために、ジョブクラフティングを必要とする従業員もいるだろう。たとえば、活字メディアのマーケティング担当者が、デジタルマーケティングにも取り組みを広げたいといった場合だ。

 個別化した働き方を許容することは、ロジスティクスの面で難しい場合がある。しかしながら、筆者らの研究では意外なことがわかった。たとえわずかな範囲であっても個人の希望に応じると、大規模に便宜を図った場合と同じように、キャリア満足度や組織が支援してくれているという認識に影響を与えるのだ。

 成功のカギは2つある。第1のカギは、創造的なアイデアを探求し、それに関わっていきたいという意欲だ。そのようなアイデアは、思いがけず重要な恩恵をもたらす可能性がある。

 たとえば、組織がコロナ禍のダメージから立ち直ることに注力しているために、自分の昇進が遅れていると不満を抱く有能な従業員がいるとしよう。マネジャーがそのような従業員の仕事に対する熱意を正しく認識していれば、彼らがエグゼクティブプログラムに参加し、さらなるスキルを習得できる機会を得られるようにお膳立てするかもしれない。その結果、会社としてより強固な基盤を整えられた時、満を持して昇進することができるだろう。

 このような思考様式を用いて期待を再調整することは、組織にとっても従業員にとっても利益をもたらす。従業員は新たなスキルを習得することで昇進が叶い、組織は高いモチベーションとスキルを持つ従業員を組織につなぎとめることができるからだ。

 第2のカギは、マネジャーと従業員が適切なトーンで話し合うことである。従業員の仕事に対する期待を再調整するための話し合いでは、透明性と互恵性が必要になる。その際はマネジャーのニーズを率直に伝え、事業継続性のような組織の問題を共有することだ。同時に、従業員のニーズを認識して、対処することが欠かせない。従業員が組織にとって生産性の高いメンバーであるために、マネジャーは彼らをサポートする用意があるというメッセージを送ることができるだろう。

 一般に、すべての従業員に対して画一的なアプローチを取るのではなく、それぞれ個別にアプローチして期待を再調整することで、高いコミットメントとスキルを持つ人材に投資することができ、その結果、組織に劇的な改善がもたらされる。