能力を再構築する

 能力の再構築とは、「組織には有効な措置を講じる能力がある」という思い込みに対処することだ。そのためには組織にとって何が最善であり、何を打ち切る必要があるかを判断するために、体系的な意識を向ける必要がある。

 たとえば、筆者らの研究対象でカウンセリングサービスを提供する会社のオーナーは、自社のキャパシティディベロップメント戦略を「無駄を削いで成長する」と表現していた。これは機能しなくなっている関係や契約から手を引き、透明性と成長をうながすシステムやテクノロジーに意図的に投資することを意味する。

 非生産的な関係や契約に終止符を打つことで浮いた資金は、時代遅れのデータシステムやレポーティングのインフラを最新のものに置き換えることに投資できる。従業員は大きな負担となっていた書類作成やコミュニケーションシステムに煩わされることなく、時間と労力を有効活用でき、以前よりも適切な情報を得ることで、ますます生産的に仕事ができるようになる。

 能力の再構築とは、従業員に活力を与え、かつ組織に恩恵をもたらす従業員のスキルに投資するという意味でもある。たとえば、あるヒスパニック系の学生が大多数を占める私立高等教育機関では現在、全職員にスペイン語のレッスンを無料で提供している。いまでは教員や事務員、現場スタッフをはじめとする全職員が、スペイン語をある程度操れるようになり、学生や保護者によりよいサービスを提供できると感じるようになった。また、学生とその家族の文化に敬意と称賛を示すことにもつながっている。

 従業員の仕事上のネットワーク構築を支援することも、キャパシティディベロップメント戦略になる。従業員は業界団体や産業別組織を通じて、効率的な仕事の進め方を理解することができるだろう。

 筆者らが研究の一環として話を聞いたある人物は、コロナ禍は業界で強力なプレゼンスを持つ企業と新たなパートナーシップを結ぶ絶好の機会であり、アイデアやスキルの交換が可能になったと語っていた。たとえば、社会正義の問題にコミットしている企業であれば、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂)の領域において、国内でも著名な講師を招き、全社向けの講演をしてもらうことができるだろう。その後は分科会に分かれて、講演内容を自社にどう応用できるかを話し合うことも可能だ。

 個人的なネットワークは、開発目標に関する分野でもサポートとフィードバックを提供できる。たとえば、マネジャーは従業員が開催するサステナビリティ会議や、ランサムウエアによるサイバー攻撃対策をテーマにした会議のスポンサーになることができるだろう。

 そのようなネットワークを統合し、サポートやフィードバック、インサイト、リソース、情報にアクセスできるようになれば、それは従業員の能力を高めるうえで重要な役割を果たす。また、従業員がネットワークを通じて得たものを会社に還元することにもなる。その結果、革新的かつ創造的な対応を実践する組織の力も育まれていくだろう。

 従業員が自己効力感を感じられるように投資を行い、組織の介入方法や従業員に大きな影響を与える方法を特定して、効果的に行動できるよう支援することで、異例の事態がもたらす絶望感や自己防衛意識を緩和する一助になるはずだ。

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 職場のニューノーマルがどのようなものになるかについては、いまだ不確実であり、企業にとっては昔ながらの慣行や習慣に戻るほうが簡単だろう。しかし、筆者らが提唱する「3つのRe」は成功している従業員、すなわち職場で学習とバイタリティを経験し、自分が大きな影響を与えていると実感できる従業員を育てるために、マネジャーがいますぐ手に入れるべき計画的な機会だ。

 期待を再調整し、コミットメントを再確立し、能力を再構築すれば、企業の最も重要な資産である人材を強化し、予期せぬ異常事態が新たに生じたとしても、それを乗り切ることができるだろう。それがいつ起きたとしても、対処することができるはずだ。

編注:「アイディールズ」(i-deals)とは、個別的の意味を持つ「イディオシンクラティック」(idiosyncratic)と、理想的の意味を持つ「アイデアル」(ideal)を組み合わせた造語。「心理的契約」の概念研究を主導してきたカーネギーメロン大学のデニス・ルソー教授が新たに提唱した概念で、「従業員がみずから雇用者と交渉し、合意を得た条件」と定義づけられている。


"3 Strategies to Help Employees Thrive in the New "Normal"," HBR.org, November 23, 2021.