
デジタルトランスフォーメーションは業務効率化の手段として捉えられることが多いが、実際にはより根本的な変化をもたらしている。企業がどこで、どのように価値を創造するかが変わったのだ。現代の価値創造は、自社の内部ではなく外部で、従業員よりも外部パートナーが行っている。企業はこのような変化を的確に捉えて、外部パートナーの価値創造を支援し、十分な報酬を支払うことが、最終的に自社の成長を実現する事実を理解しなければならない。
企業は少なくとも1980年代から、生産活動の統合、自動化、アウトソーシングを通じて、デジタルトランスフォーメーションに取り組んできた。
クライアント・サーバー・アーキテクチャがメインフレームに取って替わり、サプライチェーンの再編と分散化の促進に貢献した。エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムと顧客関係管理(CRM)システムが、事務管理部門と顧客対応部門の業務プロセスを自動化した。
クラウドとSaaSへのシフトは、ソフトウェアの進化のあり方を変え、レンタル対所有の経済性にも変化をもたらした。機械学習と人工知能が明らかにするパターンは、新しい製品・サービスの創出を促進している。
新型コロナウイルスのパンデミック下では、これまで必要上、やむをえず行われていた対面でのやり取りは、バーチャルでのやり取りに置き換えられた。
このような変化の中には、業務プロセスをアナログからデジタルに変えるといった単純なものもある。また、企業がビジネスのやり方や内容を変えたケースもある。
だが、こうした変革の中で生じた、これまでにない、そしておそらく根本的な変化がある。企業がどこで、どのように価値を創造するのかが変わったのだ。価値創造は企業の内部ではなく外部で、社内の従業員よりも外部のパートナーによって行われる傾向が高まっている。
筆者らは、この新たな生産モデルを「反転企業」と呼んでいる。組織構造の変革による影響は、テクノロジーだけでなく付随する経営ガバナンスにも及ぶ。
この傾向を最も顕著に表す例は、プラットフォーム企業のグーグル、アップル、フェイスブック(メタ)、アマゾン・ドットコム、マイクロソフトだ。彼らは従業員一人当たりの売上高において、19世紀と20世紀初頭の巨大企業が足元にも及ばないほどの規模の経済を実現した。
フェイスブックとグーグルは、提供する投稿やウェブページを自社では作成しない。アップルとマイクロソフトとグーグルは、自社のエコシステムにあるアプリのほとんどを開発していない。アリババとアマゾンはさらに大量の商品を販売しているが、それらを自社では購入せず、生産もしない。
より小規模なプラットフォーム型の企業も、同様の傾向を持っている。『フォーブス』誌が発表したグローバル2000をサンプルにすると、プラットフォーム型の企業は業界の対照群に比べて時価総額が大幅に高く(217億2600万ドル対82億4300万ドル)、利益率も格段に高いが(21%対12%)、従業員数は半数であった(9872人対1万9000人)。
かつて、従業員一人当たりの売上高が高いことは、事業運営が高度に自動化されているか、資本集約的であることを示していた。たとえば原料の精製、石油探索、半導体の製造などだ。実際、ボーダフォンは自動化により、毎年300万件の請求書の処理に従事する正社員の人数を、1000人からわずか400人にまで減らすことができた。
しかし、現在のデジタルトランスフォーメーションは違う。反転企業が格段に高い従業員一人当たり時価総額を達成している方法は、自動化でも、労働力を資本設備に置き換えることでもない。外部で行われる価値創造を統合しているのだ。
最も価値の高いデジタルトランスフォーメーションは、企業の反転から生じる。すなわち、一社単独で創造する価値から、連携を促進する価値への移行である。優れたプラットフォームを醸成するには、パートナーたちの成長を助ける手段とマーケットを提供しなければならない。
これとは対照的に、従来型企業はたいてい、自社の既存業務の効率性を高めるためにデジタルトランスフォーメーションを利用する。その後の新たな収益予測では通常、価値の獲得に主眼が置かれる。もちろん、デジタルトランスフォーメーションによる業務効率化は可能かつ必須であり、往々にして最優先とされる。だが、そこで止まってはならない。
企業はデジタル投資により、ユーザー、開発者、販売業者と大規模に連携する態勢を整えなくてはならない。価値獲得ではなく価値創造に重点を置くべきであり、それこそが企業の反転の基盤となる。反転企業は、自社単独で管理するリソースに縛られることなく、他者に管理されるリソース群を活用し、連携させるのだ。