反転企業はどのように価値を創造するのか
デジタルトランスフォーメーションと企業の反転を関連づける最も有力な根拠は、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)を導入した179社に関する最近の研究に見て取れる。
インターフェースの技術であるAPIによって、企業は自社のシステムをモジュール化し、交換とアップグレードを円滑化できる。そしてAPIは「認証」技術でもあり、外部者に内部リソースへのアクセス権を与え、アクセスを厳密に計測する。これらの機能により、企業は問題や機会に応じてシステムを迅速に再構成できるだけでなく、自社のデジタル不動産を基盤として、外部者にアプリケーションを開発してもらうことができる。
研究チーム(筆者の一人も含む)は、API導入企業を次のように分類した。まず、内部資本を調整するため、および自社単独で追求していた改善や機会のためにAPIを用いた企業だ。そして、外部向けプラットフォームのビジネスモデルにAPIを活用し、開発者やその他のパートナーによる自主的な改善や機会の創出を可能にした企業である。
これら2つのアプローチによる結果には、顕著な違いがあった。時価総額の増加分で測定したところ、社内の効率性改善の道を選んだ企業については、効果は不確定であった。対照的に、外部向けプラットフォームのためにAPIを用いた企業、すなわち反転した企業は、16年間で平均38%成長していた。後者のタイプのデジタルトランスフォーメーションは、価値の大きな増加を生んだのである。
反転企業は、外部からの貢献者の参加に大きく依存する。未知のアイデアを自主的に提供してくれる未知のパートナーに頼るという戦略だ。これはアウトソーシング、つまり自社が何を求めているかを自覚し、最もよく知るサプライヤーと契約するプロセスとは非常に異なる。
企業の反転を成功させるには、他者にエコシステムに参加してもらうことが不可欠だ。そうでなければ、料理を持ち寄る食事会を参加者なしで主催するに等しく無意味である。適切に管理すれば、出席の返事が得られ、優れたものをつくって共有してくれる参加者が来る。
これまで見知らぬ相手であったパートナーが、はたして価値を付加してくれるのか。その判断を左右しうるのは、新規参加者がどのように報酬を得るか、どんなリソースが彼らに与えられるか、そして価値創造を支援しようという企業側の意欲がどれほどあるか、である。
そこで必要となるのは、コントロールではなく支援、獲得ではなく報酬の提供へと経営マインドセットを変えることだ。投資、アイデア、労力を自主的に提供してくれるようパートナーをうまく説得できればできるほど、外部エコシステムは繁栄する。
反転企業は、パートナーを引き付けるために一つのシンプルなルールに従っている。「自社が得る価値よりも多くの価値を生み出す」ことだ。
少し考えてみれば、このルールの有効性がわかる。人々は見返りとして価値が得られるのであれば、みずからの時間やアイデアやリソースを喜んで投じ、市場拡大に貢献する。パートナーは自身の価値を高めてくれる企業に群がり、それがエコシステムの繁栄につながる。
対照的に、自社が創造する価値よりも獲得する価値のほうが多い企業は、人々を遠ざける。料理長が売上げを独占するような厨房で、働きたい料理人はいるだろうか。地主が家賃をすべて懐に入れるようなデジタル不動産で、何かをつくりたい人などいるだろうか。そのようなエコシステムは衰退する。
優れたプラットフォーム管理とは、取り分を価値の30%以下に抑えることであり、もっと大幅に少なくてもよい。製品企業のあまりに多くが、「自社はどのように儲けるか」という問いから始める悪い癖を持つ。そうではなく最初に問うべきは、「自社はどのように価値を創造するのか」、そして「どのように他者の価値創造を助けるのか」である。企業は価値を生み出すことによってのみ、儲ける資格を得るのだ。