デザイン経営を実践する組織に求められる人材

 次に、デザイン経営を実践する組織に求められる人材の要件について、経営層と現場に分けて説明したい。

 経営層には、経営者やマネジャーの一人ひとりがデザイン経営について考え、それを組織に広め、ユーザー体験・クリエイティブを重視する姿勢と定量目標(KPI)を両立させることが求められる。

 デザインの専門性をすべて経営層が理解することは難しいため、デザイン専門職と経営層を橋渡しする役割の人材が求められる。デザイン部門のヘッド(Chief Design Officer: CDO)である。経営者と現場のデザイナーの両方から信頼されていることが肝要である。CDOは、経営層と頻繁にコミュニケーションを取り、経営層のデザインへの理解度を深めることも重要な役目となる。

 CDOは、実績のあるデザイナーを外部から招くことも考えられる。しかし、ここまで述べてきたように、デザイン経営では自社のストーリーを理解し、それを経営の判断軸に落とし込めることが重要である。自社の顧客や社員、そして商品について考えぬいている内部の人材がデザイン能力を高めて、その職を担うほうが望ましいといえる。

 一方、デザイン経営における現場では、一人ひとりが目の前の仕事を企業のストーリーと結びつけ、日々の意思決定の判断軸として活かせている状態がゴールである。デザインとは第1回で述べたように「人」が「動く」仕掛けである。したがって、デザインの目的に立ち返ると、現場に求められる人材とは、企業のストーリーを理解し、仕事で実践する上で周りを巻き込める推進者の役割を果たせる人材である。推進者にはユーザー視点で問いを立て、アイデアを発散させ、発散したアイデアを収集・整理し、場をまとめていく、ディレクション能力が問われる。

 デザイン経営とは、経営層から現場まで誰もがデザイナー意識を持ち、自らの仕事で実践することである。デザインへの理解のある組織、社員の美意識が高い組織からは、魂のこもったよい製品やサービスが生まれる。