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先行き不透明な状況が続くと、人は安全な環境に引きこもりやすく、やりがいある挑戦すら遠ざけてしまう。その結果、みずからの能力を十分に発揮できていないと感じ、不安な無力感にさいなまれることは珍しくない。自分が人生で何を大切にしているかを自覚し、意義あるキャリアを選択するために、どうすればよいのか。筆者は3つのP、すなわちパーパス(purpose)、人材(people)、ペース(pace)に着目することが重要だと語る。


 パンデミックの最中、私たちの多くはプライベートでも仕事でも、精神的に打ちのめされ、不安が募る連鎖に陥っている。物事が自分の手に負えないと感じると、人は管理されたコンフォートゾーンの中で、安全だと思える場所に引きこもろうとしがちだ。

 これは、よくある対処メカニズムである。しかし、実際には回避したいと思っている感情をさらに悪化させることになる。

 ストレスを軽減するために、「やることリスト」の内容を最小限の労力で達成可能なことだけに絞り込んでいくと、やりがいのある挑戦までやめてしまうことになり、人生に意義を与えてくれる達成感が失われてしまう。その結果、自分の能力を十分に発揮できていないと感じ、不安や無力感が募る。

 パーパスとコントロールを取り戻すには、180度方向転換して、自分を前進させてくれる有意義な挑戦を追い求める必要がある。

 精神的に打ちのめされて燃え尽きる理由は、物事のペースやプレッシャーのせいだけではない。たとえば、筆者が2000年代初頭にアマゾン・ドットコムとグーグルで働いていた当時は、週80時間以上働くことも珍しくなかった。さらに環境やペース、機会、プレッシャー、期待値が同じだとしても、成長する社員もいれば、失速する社員もいた。

 筆者は、仕事が長続きするか否か、そして仕事に喜びを感じられるか否かを決める主要な要因は、価値観の一致であると気づいた。

 人生やキャリアにおいて、自分が何を最も重視しているかをあらためて認識すると、それまで気づかなかったようなエンパワーメントの機会が見えてくる。人は自分が求めているものを知り、それを追い求めるだけで、みずからの運命をよりよい方向に導くことができるのだ。

 この作業にたいした時間はかからないが、目的意識を持つ必要はある。価値観のすり合わせが受動的に行われることはまずない。

 先週、20年以上前から付き合いのある友人のデイビッドとキャリアに関する話をした。現在、グローバル企業のバイスプレジデントを務める彼は、特定の業務により特化した事業を展開する、ある非公開企業のCEOとしてスカウトされていた。判断の難しい問題であり、肩書きや報酬の違いを考慮すると、話は一段とややこしくなる。

 そこで、筆者らは一歩引いて、それぞれのポストで経験できるユニークなチャレンジと成長の機会に焦点を当てた。そして、彼が仕事上の次のチャンレンジを選ぶための「価値観をすり合わせるためのスコアカード」を作成した。その内容は以下の通りだ。

1. キャリアの次のフェーズで学びたいこと、貢献したいこと。
2. 誰に、どのような形で奉仕したいのか。
3. マイルストーンとなる目標を達成していくペースに関する希望。

 このスコアカードによって、選ぶべき道はほぼ瞬時に明らかになった。デイビッドはCEO就任のオファーを辞退し、現在の会社で自分の価値観に合致するプロジェクトやチャレンジを積極的に探すことにした。以前の彼は疲弊して、自分の能力を活かせないと感じていたが、活力が蘇り、みずからの人生の運転席に座る感覚を取り戻したのだ。

 キャリアを全面的に変えるにせよ、いまの職場で自分にとって最も意義深い業務に照準を合わせるにせよ、ピボット(方針転換)する際には方向感覚を失いやすい。しかし、自分が何をやりたくて、何をやりたくないのかを記録する簡単なスコアカードを作成するだけで、このプロセスを困難ではなく、活力と意義に満ちたものに変えることができる。

 そのためには、3つのP──パーパス(purpose)、人材(people)、ペース(pace)──に着目するとよい。