
ESG(環境、社会、ガバナンス)というキーワードが世界中で浸透し、持続可能性をめぐる議論が至るところで起きている。特に2021年の1年間に目を向けると、そこにはさまざまな前進が見られた。本稿では、サステナブルビジネスを長年にわたり推進してきたアンドリュー・ウィンストンが、2021年に生じた主要な変化を振り返ったうえで、2022年の展望を示す。
気がついたら、それは当たり前になっていた。企業のサステナビリティをめぐる動きはほぼ一貫している。気候変動の危機の拡大、クリーンテクノロジーの超高速の成長、多くのステークホルダーからの圧力の高まりなどだ。
筆者は基本的に、「これらのトレンドは進展し続け、いずれ支配的になるだろう」と思っていた。しかしこの1年で、「いずれ」がついに「いま」になった──そして、もう後戻りはしない。
今日では「ESG」(環境、社会、ガバナンス)で通じるようになった問題をめぐる議論は、筆者がこの分野に携わってきた20年間を考えると、いまやすっかり一般的になった。ESGは至るところにあり、そのことを裏付けるデータもある。
実際、世界的な大企業のほぼすべてがサステナビリティレポートを発表し、目標を設定している。たとえば、2000社以上が科学的根拠に基づく二酸化炭素排出量の削減目標を設定し、欧州の大手上場企業の約3分の1が2050年までにネットゼロを達成すると宣言している。社会面では、企業はダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)の取り組みを拡大し、人種的不平等に対処するために資金を投入して、以前は避けていた社会的問題に声を上げている。
これらの行動は、二酸化炭素排出量の削減や不平等の解消につながる具体的な行動と一致するわけではないが、けっして傍流ではない(化石燃料大手のエクソンモービルはアクティビストからサステナビリティに配慮した取締役の選任を迫られ、そのことに気がついた)。
私たちは「始まりの終わり」に到達したのだ。サステナビリティを経営のアジェンダに掲げるべきだということを、本気で疑うビジネスリーダーはもういない。企業は段階的な改善から、世界にネットポジティブ・インパクトをもたらす大胆で体系的なアプローチへと移行しつつある。
このような機運は、2021年を通じてどのように醸成されたのだろうか。複雑で変動の激しかった1年を要約するのは難しい。
また、この1年で生じたいくつかの大きな出来事は一時的なものなのか、それともサステナビリティに向けた大きい恒久的な変化の一部なのかがまだわからないため、あえて取り上げていない。たとえば、世界的なインフレーションは、長期的な資源の制約を反映したものなのか、効率化を推進し循環型・再生型のビジネスモデルの模索を迫るメガトレンドなのか、あるいは新型コロナウイルス時代の歪んだ購買パターンの余波にすぎないのかもしれない。
本稿では、より長く続きそうなテーマやストーリーの概要と、2022年に注目すべき点を考えていきたい。