●自分のキャリアを土台からとらえ直す

 キャリアのリミナルスペース、すなわち「現在の場所」から移動して「次の場所」に着地するまでの間を上手に利用する。一歩下がって、自分のコンピテンシーポートフォリオの棚卸しを行い、みずからの得意分野を活かせる仕事をできる限り幅広く検討するのだ。

 筆者のクラークが著書Reinventing You(未訳)の中で紹介したリサは、法学者を目指していた。そのために10年の歳月を費やした結果、自分が本当は「法学者にはなりたくない」ことに気づき、ぞっとしたという。

 それでもリサは慌てふためくことなく、業種や業界の枠を越えて使えるスキルを棚卸しすることで、法学で訓練した口頭弁論のスキルがあれば説得力のあるセールスパーソンになれること、博士課程で身につけた語学力を活かせば国際的な仕事に就けることに気づいた。最終的に、彼女はワイン業界を選択し、自分が心の底から大好きだといえる仕事をしながら、自身のスキルを存分に発揮している。

 自分が伸ばしたいと思う分野を見つけるのもよいだろう。研究者が基礎研究や探索研究を通じて新たな問題を発見するのと同じように、職種ではなくスキルの観点から自分の将来を考えると間口が広がるはずだ。スキルを深めたい分野はどこか、自分自身に問いかけてみる。

 たとえば、営業で顧客相手にプレゼンテーションスキルを磨いてきた人の場合、一歩引いて考え、パブリックスピーキングのスキルを磨いてはどうだろうか。特定の技術を取り扱う人の場合は、その技術を人々が有効利用できるように支援することも考えられる。この機会に、自分が得意とすることを活かせる仕事を幅広く洗い出し、足りないスキルを強化しよう。

 ●曖昧であることで、適応性を高める

 現代社会は常に大きく揺れ動いているため、必要に応じて急転換する能力が求められている。だが、人間は予測可能性を求める生き物であり、強制されない限りは方向転換したがらないものだ。

 私たちが意味を求めているように見えることの多くは、秩序や慣れ、予測可能性を求める生来の欲求にすぎない。なぜなら、これらはストレスや不安を遠ざけ、正気や安定を維持するための基本的な特質だからだ。人間の本能は、曖昧なものを無理やり明確なものにして、コントロール感を取り戻そうとするようにできている。

 そうであるならば、そのような不快感に身を委ねてはどうだろう。曖昧さと向き合うことで、その支配力を弱め、未知に対する恐怖を和らげることもできる。未知なるものに直面した時、「どのような脅威を軽減すべきか」と問うのではなく、「行動の結果が読めていたらできないが、曖昧だからこそ取り組めることは何か」と自問する。

 たとえば、いまの時点で熟練し「採用されやすい」と思う分野にばかり目を向けるのではなく、スキルはそれほど持っていなくても、以前から興味を持ち続けていた分野に足を踏み入れてみる。そうすれば誰かに何かを証明する必要性から解放され、新たに物事を始める自由を謳歌することができるだろう。

 たしかに、不確実性を受け入れ、知らないことを知らないと認めるには、最低限の精神的・心理的成熟が必要である。しかし、哲学者ヴォルテールの有名な言葉にあるように「懐疑は喜ばしい状態ではないが、確実性も不条理だ」。適応性を高めることができれば、敏捷性(アジリティ)が求められる無数の職種の採用担当者にとって、それだけ魅力的な存在になる。