●伝統的なリチュアルを踏襲するか、新たなリチュアルを創造する

 極めてシンプルなリチュアル(儀式や習慣)であっても、従業員をまとめ上げるうえで重要な方法である。リチュアルは、心理的安全性(psychological safety)と目的意識(sense of purpose)を高め、それがパフォーマンス(performance)の向上につながることで強力な効果を発揮する(筆者はこれらの頭文字を取って「3つのP」と呼んでいる)。

 私たちは誰もがリチュアルを持っているが、それを明確に見極めるのは難しい場合がある。筆者自身の定義では、リチュアルとは「特に具体的な理由があるわけではないが、定期的に行われること」だ。たとえば、従業員は一緒に昼食を取ることが多いが、それは必ずしもリチュアルではない。結局のところ、誰もが食事をしなくてはいけないからだ。

 しかし、チームがスケジュールを変更して予定された時間に集まり、同じメニューから順番に注文するようになり、さらに同席しないことに喪失感を覚えるようになると、それはリチュアルになる。リチュアルは、私たちが人間として、そしてグループの一員として、自分らしく存在する助けになるのだ。

 EAマーケッツでは、従業員が自分たちのリチュアルに感謝し、スーパーデイズの間もそれを守ってほしいと筆者は考えた。そこで、彼らに重要な質問を投げかけることにした。「従業員が最も『EAマーケッツらしい』と感じるのは、どのような時か」と尋ねたのだ。

 興味深いことに、従業員の大多数から同じ答えが返ってきた。「この1年と9カ月の間、金曜日の午前9時から始まるミーティングの時間に、最もEAマーケッツらしさを感じてきた」というのだ。

「おや、金曜日の朝にいったい何があるのだろう」というのが、筆者の直感的な反応だった。

 EAマーケッツでは、従業員全員が金曜日の午前9時のステータスミーティングに参加していたことがわかった。リモートワーク導入後、ダニエルズは金曜日に開かれるミーティングの目的を、ビジネスの進捗状況を確認することから、会社の中でつながりを維持することに切り替えた。

 金曜日のミーティングは、全員が打ち解ける質問を中心に構成される。「もしEAがマスコットだとしたら、何だと思いますか」「ストレスフルな1日を終えて、どうやってリラックスしますか」「今週うまくいったことを教えてください」というものだ。

 EAマーケッツでチーフ・オブ・スタッフ(CoS)を務めるパーラ・バーンスタインによれば、この時間は従業員が交流を深め、人間としてのつながりを保ち、1週間を喜びの中で終える重要なリチュアルになったという。言い換えれば、このようなシンプルな時間が、従業員をまとめる接着剤の役割を果たしているのだ。

 筆者らは、スーパーデイズが新たなリチュアルの機会を生み出す可能性を協議した(実際、スーパーデイズ自体がリチュアルになりつつある)。筆者は、金曜日の朝の打ち解ける時間を維持する重要性を主張した。それが週に一度、全員を結び付ける重要な時間になっていることは明らかだった。

 2022年を迎えたいま、従業員が今後、いつ、どこで、どのように集まるべきかを検討するにあたり、リチュアルは素晴らしい出発点になる。自分自身にもチームメンバーにも、「あなたが最も『○○らしい』と感じられるのは、どのような時か」を問いかけてみることだ。

 その答えは、あなたの会社にすでに存在するリチュアルについて、そして新しいリチュアルを創出する具体的な方法について、何らかの知見を与えてくれるだろう。この問いに対して誰も答えを持たない場合も、何かを物語っているはずだ。きっと、あなた自身も、2022年をつながりが生まれる年にしたいと思っていることだろう。

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 リーダーの中には、従業員の出社勤務の再開が実現するかどうかは、リーダー次第だという考え方に抵抗を覚える人もいるだろう。しかし、2021年のデロイトのリポートが指摘しているように、「この1年間、リーダーは組織と労働者の人間関係について、伝統的思考を脱ぎ捨ててきた」。あらゆる企業が想像を絶する問題に直面する中、それに対処するには、誰もがこれまでとは違う新しい考え方を見つけなければならない。

 事実、出社勤務日をみずからの価値観と一致させ、専門能力の開発を個人の問題として受け止め、リチュアルを活用すれば、デロイトの報告書に書かれているように「主体的目標と優先順位に意識を集中する」だけでなく、「労働者のエンゲージメントを高め、生産性を高めることに成功する」。それは、誰にとってもよい知らせだ。


"In the Hybrid Era, On-Sites Are the New Off-Sites," HBR.org, January 06, 2022.