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デートサイトのマーケティング担当者は、従来のネットワークビジネスと同じジレンマに対処する必要に迫られている。ネットワーク拡大を優先するか、収益拡大を優先するか、だ。デートサイトでは収益を犠牲にして、友人を紹介したユーザーにプレミアムサービスを無料で提供していることが少なくない。ビジネスの成功に欠かせない要素、つまり新規ユーザーを惹き付け、会員数を増やすことが目的だ。しかし、友人の紹介を受けた新規会員が既存会員に匹敵するだけの利益をもたらしてくれるかどうかはわからない。本稿では、実際のプラットフォームを利用したフィールド実験の結果から、収益を犠牲にせず、会員数を拡大する紹介プログラムの設計可能性について論じる。


「真の恋の道は、茨の道である」と、ウィリアム・シェイクスピアは言った。現在、世界に8000以上のデートサイトが存在し、多くの人々にとって出会いの場になっている。これは、最先端のマッチングアルゴリズムをもってしても、真のパートナーを見つけるのは容易でないことを示す証左といえる。

 しかし、このようなデートアプリのユーザーは往々にして、この世界のどこかにいるはずの「特別な一人」を探しているかもしれないが、アプリ会社のCMOが求めているのは「大量のユーザー」を惹き付けることだ。

 多くのネットワークビジネス同様、デートサイトもジレンマに対処する必要を迫られている。すなわち、ネットワーク拡大を優先するか、あるいは収益拡大を優先するか、だ。

 ネットワークビジネスが成功するために、つまり新規ユーザーを惹き付け、登録会員数を増やすために、デートサイトはしばしば収益を犠牲にして、友人を紹介したユーザーにプレミアムサービスを無料で提供している。

 残念ながら、このような紹介プログラムの価値は明確でないことが多い。デートアプリのアルゴリズムは、2019年時点でまずまずのレベルにあり、米国のカップルの39%がオンラインで出会っていた。2020年には、世界のデートサイト利用者は2億7000万人に上る。この数字は、5年前のほぼ2倍だ。とはいえ、友人の紹介で登録した新規会員が、彼らにサイトを紹介した既存会員に匹敵する利益をもたらしてくれるかどうかはわからない。

 皮肉にも、データ主導であることをビジネスの特徴としながら、デートアプリのマーケティング担当者は一般に、既存会員である友人の紹介を受けて登録した新規会員が、そのアプリを実際にどれくらいの頻度で利用し、有料のプレミアムサービスにどれだけ関心を持つのかは推測するしかない。

 しかし、そのような状況も変わりつつあるようだ。ある若手プロフェッショナル向けのデートサイトがそうであるように、筆者らもしばしば、このトレードオフに直面してきた。筆者らはこの問題に対処するために、そのデートサイトについて、本来のデータ主導の手法により推測を排除し、収益と会員数のバランスを図ることを試みた。