Javier Zayas Photography/Getty Images

従業員のリスキリングは、組織の短期の生存戦略として有効だ。しかし、目先の変化に対応するだけでなく持続的成長を実現するうえでは、優秀な人材に働き続けてもらえるような魅力的なキャリアプランを提示して、従業員のアップスキリングに積極的に投資することが不可欠だ。本稿では、アップスキリングを効果的に実施するうえで、リーダーが考慮すべき3つの重要なポイントを示す。


 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが働き方や働く場所の変化を加速させたことで、従業員のリスキリングは会社の成長を促進あるいは維持するための短期の生存戦略となった。企業は、従業員のスキル習得に投資することで、パフォーマンスと信頼度がどちらも向上することに気づいたのだ。

 しかし、「大退職時代」(グレート・レジグネーション)に従業員を定着させようとする企業は、この短期的なアプローチから脱却する必要がある。

 アップスキリング(スキル向上)は、従業員のキャリアアップに役立つ知識、スキル、コンピテンシーを強化するための長期的な投資だ。従業員が個人あるいはプロフェッショナルとして成長を果たすために、アップスキリングの機会を提供され、かつその機会を利用することが奨励されると、従業員エンゲージメントやリテンション(定着)のような人材評価の指標も改善する。

「従業員は、自分の将来のキャリアにどのような可能性があるのか、そのために必要とされるスキル、コンピテンシー、能力は何かを知りたがっている」と、センゲージ・グループのHR担当バイスプレジデントを務めるパトリス・ローは筆者らに語った。新型コロナウイルスの影響で、多くの人が個人的な優先順位と仕事上の優先順位を考えるようになったとローは指摘し、「こうした重要な問いに何らかの答えを提示できない企業は、優秀な人材を失うことになるだろう」と述べた。

 しかし、組織のアップスキリング・プログラムの設計には、やっかいな問題をはらんでいる。メディカス・ヘルスケア・ソリューションズで企業研修開発部門のチームリーダーを務めるエリン・ポスニックは、「残念なことに、たいていの場合、従業員はより多くのトレーニングの機会を希望しながらも、自分がどのようなスキルの習得や成長を望んでいるのかを理解するのに苦労する」と話す。

 したがって、組織やHR部門のリーダーは「従業員にとって何がアップスキリングになるかを定義し、それを実践するための正しい方法とは何か」を検討しなければならない。それを理解するために、筆者らはさまざまな業界のHRおよび人材開発部門の幹部に話を聞いた。以下は、リーダーが考慮すべき3つの重要事項だ。