
リーダーシップ開発の対象に選ばれるのは、多くの場合、優れた成果を上げた人材である。最高の人材に投資して、彼らの成長を支援することが、組織に成功をもたらすと考えられているからだ。しかし、平均的なパフォーマンスを上げる人材に対する投資を怠り、ハイパフォーマーに偏った能力開発を実施すれば、さまざまな問題を引き起こしかねないと筆者らは指摘する。本稿では、組織にはびこる3つの思い込みを明らかにし、問題を未然に防ぐ方法を紹介する。
シニアリーダーは、キャリアの最終章を迎えた最も経験豊富な時期に、リーダーシップトレーニングを受けることが多い。また、組織は毎年、業績評価や人事評価を実施して、ハイパフォーマーやハイポテンシャル(HiPos)な人材を特定し、彼らに充実した能力開発の機会を提供することに尽力している。
いずれの場合も、能力開発の機会が最も多いのは、最も能力開発を必要としない人であることは間違いない。筆者らはこれを、「リーダーシップ開発のパラドックス」と呼んでいる。
組織のリソースが限られる中で、「最高」の人材に投資するというビジネスケースは明快に思える。成功という確かな実績がある人は評価されてしかるべき、というわけだ。また、彼らは成長に必要な経験と能力があるため、能力開発から最大の恩恵を受けることが確実な候補者とも考えられる。
リーダーシップ開発のパラドックスの副産物は、「それ以外の人」が概して能力開発の機会から排除され、組織内に不均衡や不公平感を生むことだ。健康と政策に関する長年の研究から、持てる者と持たざる者の間に大きな格差が存在する不平等な社会では、生活の質が低下することが明らかになっている。同様に、能力開発を受ける人と受けない人の間のギャップが大きい組織も、組織の不均衡による影響を受けやすくなる。
さらに、従業員の期待を裏切ることにもなる。労働者は一般に、組織が従業員に対して、在職期間中に能力開発の機会を提供する義務があると考えている。このような期待に応えられないと、最終的には仕事のパフォーマンスや組織へのコミットメントが低下したり、退職の意向が強まったりするなど、マイナスの結果につながる。
リーダーシップ開発のパラドックスの背後に存在し、問題を引き起こしかねない3つのよくある思い込みと、リーダーがそのような盲点を克服するための方法を紹介する。