女性医師が職場を去る理由
研修医として勤務を始める時点で鬱状態にある医師の割合は、男性医師と女性医師の間でほとんど差がない(その割合は社会全体とほぼ変わらない)。しかし、次第に両者の差が広がっていく。女性医師も男性医師も研修期間中に抑鬱の兆候を経験する割合は大幅に増加するが、その傾向は女性医師のほうが強く、男性医師と比べて統計的に有意である。
医師の仕事に従事することが、なぜ女性に特別大きなダメージを与えるのか。その一つの理由は、女性医師が患者一人の診療に費やす時間と、電子医療記録の入力に要する時間が、平均して男性医師よりも長い点にあるようだ。
女性医師の勤勉さは、患者に好ましい結果をもたらしている。医療の成果に関する一部指標は、女性医師は男性医師に比べて医療の質が若干高いことを示している。たとえば、女性内科医が担当した高齢の入院患者は、死亡率と再入院率が低いことが、いくつかの研究から示されている。
しかし、女性医師の日々は過酷だ。夜遅くまで職場に残り、電子医療記録を作成するだけではない。家庭で担う家事や育児の負担も、男性医師に比べて極めて重い。
このジェンダー格差は、しばしば言葉を失うほど大きい。最近の研究によれば、コロナ禍の下、子どものケアと教育を担う割合は男性医師が1%に対して女性医師が25%、家事を担う割合は男性医師が7%に対して女性医師は31%と大きな開きがあった。
その結果、何が起きているか。
女性医師は男性医師に比べて、燃え尽き症候群に陥る割合が高く、職業上の充実感を抱いている割合は低く、鬱状態にある割合が高い。
筆者らが所属するプレス・ゲーニーでは、2018年、19年、20年に医師を対象としたエンゲージメント調査を行い、20万人以上から回答を得た。データの詳細は未発表だが、仕事に感じる意義の大きさは男性医師と女性医師でほとんど差がなかった。一方、女性医師のほうが仕事とプライベートの切り替えに苦労し、自分自身の回復に充てる時間を十分に確保しにくい点で違いが見られた。
調査結果からは、男性医師と女性医師の間には、いくつかの点で由々しき相違が存在することも明らかになった。
・上層部との関係:組織のリーダーとの間に、どのような関係を築いているか。価値観を共有できているか。
・レジリエンス:仕事に意義を見出しているか。仕事以外の時間にエネルギーを取り戻せるか。
・職場に留まる意志:いまから3年後、同じ職場に留まっていると思うか。