
コロナ禍以前から指摘されてきた問題が、さらに深刻化している。女性医師の大量退職だ。医療現場に女性医師を惹き付け、定着させる方策を見出せない限り、事業を継続できない可能性さえある。女性医師の割合が増え続けたこともあって、「女性医師にとって働きやすい場所」であることは、あらゆる医療機関のリーダーにとって喫緊の課題だ。本稿では、20万人以上の医師を対象に行ったエンゲージ調査の結果から、女性医師が職場を去る理由を分析し、リーダーが実行すべき3つの基本戦略について論じる。
現在、米国の医師全体の3分の1を女性が占めている。医学を専攻する学生の過半数が女性であり、その割合は増加傾向にある。一方で、女性医師のかなりの割合がフルタイムで働くのをやめていたり、勤務時間の削減を検討していたりする。そのような実例は山のように存在し、ある小規模経年調査からも裏付けられている。
この傾向は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前から問題とされていた。しかし、女性医師が現場を去るケースが多いこととコロナ禍の影響が相まって、医療スタッフの確保に奔走する医療機関にとって危機的な状況が生まれている。
問題は、コロナ禍による当面の試練だけではない。病院であれ、医療システムであれ、医師団体であれ、さまざまな組織形態の医療機関を率いるリーダーは独自の「コロナ後遺症」に悩まされている。現場に女性を惹き付け、定着させる方策を見出せない限り、医療という極めて重要な事業を継続できないのだ。
医療界のリーダーはあらためて、こう自問し始めている。「医療の世界は、女性医師にとって働きやすい場所といえるのか」
スタッフの退職率の高さは、医療機関において深刻な問題だ。女性医師にとって働きやすい環境をつくることは必要不可欠であり、この問題に対処するうえでも特に重要な意味を持つ。
多くの病院や救命救急センターでは看護師不足が喫緊の課題になっているが、医療を担うのはそのような機関だけではない。診療所の外来診療を含めて、多くの医療現場で中心的な役割を担うのは医師だ。医師全体に占める女性の割合が確実に増え続けていることを考えれば、女性医師を離職させないことが極めて重要となる。
医療機関は、女性医師の大量流出を放置するわけにいかない。そのような潮流に歯止めをかけるには、医療界のリーダーは女性医師が職場を去る理由を把握し、彼女たちが活躍しやすい環境をつくるために、3つの基本戦略を実行すべきだ。基本戦略について説明する前に、まずは問題の根本原因を見ていこう。