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現在のダイバーシティに関する取り組みは人種やジェンダーを中心に進められ、神経発達の多様性を持つ「ニューロダイバース人材」の採用・定着については、見過ごされている場合が多い。彼らは特定領域で平均を超える優れた能力を備えていることが多く、実際にニューロダイバース人材の採用プログラムを導入した先駆的企業は、さまざまな恩恵を受けてきた。近年では、ニューロダイバース人材を企業に仲介するビジネスが台頭し、神経発達の多様性を持つ人材の就業率上昇に寄与している。本稿では、それぞれの成功事例をひも解きながら、ニューロダイバース人材の採用拡大の必要性を論じる。


 企業は規模の大小を問わず、人口動態の大きな変化に直面しつつある。それは、自閉症(オーティズム)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)、ディスレクシア(発達性読み書き障害)、トゥレット症候群(TS)など、ニューロダイバース人材(非定型発達者)の急増だ[編注]

 今後10年間(そしてそれ以降)は、労働者の中に自閉症を抱える人々が特に増えていくだろう。これは人種や民族、地理的な違いとは関係なく見られる傾向だ。

 たとえば、米国疾病対策センター(CDC)は2005年、自閉症を抱える子どもの割合は166人に1人と推計していたが、2021年には44人に1人とその割合が高まっている。ドレクセル大学の研究チームは2019年、今後10年間に成人年齢(18歳以上)に達する自閉症者は70~100万人いるとの見方を示した。現在、若年の自閉症者の失業率は高止まりしており、80%を超えるという推計もある

 2010年代初頭以降、大手企業のネットワークは、ニューロダイバース人材を自分達の組織にうまく統合するために、採用のイニシアティブやプロトコルの作成に取り組んできた。

 それらのプログラムはいずれも、ニューロダイバース人材が採用の過程で直面する典型的な課題に対処するとともに、彼らが持つスキルの強みや職場でのオリエンテーションに焦点を絞った設計がされている。その結果、企業はニューロダイバース人材が備えるプロフェッショナルな特性、たとえば欠勤率の低さ、仕事に全力で取り組む姿勢、そして会社に対する忠誠心の高さなどから恩恵を受けてきた。

 大企業で働く障害者の数が増え、エクイティ(公平性)やインクルージョン(包摂)に関する取り組みが進む中、人種とジェンダー以外のダイバーシティ(多様性)についても考慮することが求められている。しかし現段階では、ニューロダイバース人材の採用イニシアティブの策定に取り組む企業の数は、このイニシアティブに参加する労働者の数と同様に、控えめな水準に留まっている。

 このようなプログラムの導入に成功してきた企業の例から、何を学ぶことができるだろうか。また、自社でプログラムを実施するリソースがなくても、ニューロダイバース人材の採用を拡大するには、どうすればよいのか。