ロールモデルになる

 セルフケアは贅沢でなく、不可欠なものだ。あなたが緊張したり、いら立ったり、内にこもったり、怒りやすかったりすれば、チームも同じような状態に陥る。あなたの現実観が、否定や妄想、あるいは「我々対彼ら」という思考によって歪んでいたら、チームが効果的な行動を取る能力は大きく損なわれる。あなたが有害な行動を取ったり、結論を急ぐあまりに一貫性を欠く判断を下したりすれば、信頼と士気は失墜するだろう

 リーダーとして人間性を前面に押し出し、リーダーシップの中心に置こう。心の柔軟性を保ち、感情をオープンにして、健康的な習慣を取り入れ、人間の不完全さという、どうしようもない事実と折り合いをつけて、あなたがロールモデルを演じるのだ。

 ●心の柔軟性を保つ

 危機の時には、新しい情報が絶えず流れ込み、状況が刻々と変化するため、平時に比べて、精神的な鋭敏さが強く求められる。ところが、ストレスやトラウマ、疲労を抱えていると、思考力や集中力が低下するメンタルフォグや、ある種の認知的視野狭窄により、この鋭敏さを発揮することが難しくなる。そこで、心の筋肉を柔らかくしておくことが欠かせない。

 仕事では、ふだんから意見を求めて、知らないことは知らないと認める習慣を身につけよう。間違いを認めることは、けっして恥ずかしいことではなく、ごく当たり前のこととして受け止める。相反する衝動や価値観を認め、新しい情報に従って考えを変えてもよく、謝るべき時には恥だとは思わずに謝ることだ。

 自宅では、思考の堂々巡りから抜け出すために、個人練習ができないか検討する。たとえば、自然の中で過ごす、日記を書く、新しい趣味を始める、瞑想するなど、脳のさまざまな筋肉を使い、自省の機会になることなら何でもよい。

 ●感情をオープンにする

 自分がつらい時や調子が悪い時は、それを認めることだ。ただし、リーダーは疑問や不安を抱えていても、すべてを口に出すことはできないため、バランスを取ることが必要になる。

 さらに重要なこととして、自分が安心感を得るために、チームメンバーを心の拠り所にすることがないようにしたい。彼らには、あなたに「何もかも、うまくいきます」と言ったり、あなたの自尊心を満足させたりする責任はない。

 そもそも、敏感なチームメンバーは、あなたの不調に気づいている。あなた自身が本調子でないことを認めれば、彼らはあなたが自分の感情について自覚していることを知り、誰もが適切に対応できるようになるはずだ。

 ●健康的な行動を心がける

 理想を言えば、職場以外で社会的・感情的支援を受けられるようにしたい。配偶者、友人、セラピスト、宗教指導者、あるいは「自分専用の取締役会」でもよい。定期的に連絡を取り、自分の状態を確認する機会を持つことだ。そして、睡眠、運動、栄養、水分補給、脳のダウンタイム(休止時間)といった基本的なセルフケアを一通り行う

 このようにセルフケアで必要とするものが、チームメンバーにも用意されているか確認しよう。何をすべきか助言する必要はないだろうが、実際的なリソース、すなわち時間、費用、設備、アクセスは揃っているだろうか。

 また、セルフケアについて定期的に話題にしよう。時折、ミーティングを始める前に、自分自身のケアのために行ってよかったと思うことや、最近交わした有意義な会話を一つずつ挙げてもらい、メンバーに発表してもらうのもよいだろう。

「よく働き、よく遊べ」と余暇活動を競い合うような文化を持つ業界や企業にいる場合は、それを明確に否定する。週末は過酷な障害物競走のタフマダーのトレーニングをしていると自慢する人や、デュオリンゴで外国語学習に励んでいるという人ばかりであれば、アイスを食べながら犯罪ドラマを観ることも余暇の有効な過ごし方だと指摘しなくてはならない。