●キャリアの基礎で進歩を遂げる
科学の世界でいう「基礎研究」とは、脳の機能や物理学の原理といった基本現象について理解を広げる研究のことだ。これに対して「応用研究」とは、基礎研究による発見を現実世界で実際に応用するための研究を指す。
キャリアについて、実用性を考えることはもちろん素晴らしいが、それはあくまで自分が向かいたい方向が明確な場合に限られる。多くの人は、仕事で無数の選択をしているために、決断疲れから麻痺状態に陥り、行動を起こさずに終わってしまうことが少なくない。しかし、立ち止まっている状態が優れたキャリア戦略でないことは明らかだ。
それよりもプロフェッショナルとしての基礎研究に意識を向けて、最終的にどの方向を目指すと決めるにせよ、自分に役立つ基本的なスキルと知識をさらに磨くほうが、はるかに好ましいだろう。
たとえば、あるコンピュータ言語でコーディングを学んでも、エンジニアを辞めると決めた場合は役に立たないかもしれない。しかし、人前で話すスキルを向上させたり、時間管理のスキルを磨いたりしておくことは、どのような仕事に就いても役立つ可能性が高い。
●自分の感情と精神のエネルギーを精査する
この2年間で誰もが疲弊したが、コロナ禍でどのような影響を受けたかは、それぞれの状況により異なる。リモートワーク中に一人暮らしで苦しんだ人もいれば、配偶者や子どもにじゃまされて困った人もいるだろう。
自分のキャリアを戦略的に考えるうえで最も重要なことの一つは、人生は循環するようにできていると理解することだ。筆者はこれを「押し寄せる波のように連続する思考」と呼んでいるが、そのプロセスの中で自分がどこにいるかを認識しなければいけない。
コロナ禍の間は思い悩んでいたかもしれないが、いまは無気力な状態から抜け出し、新しいプロジェクトに情熱を持って飛び込もうとしている人もいる。この2年間は、あらゆる物事をつなぎ留めるために、自分の限界を超えて働いてきたという人もいるだろう。
後者の場合、いまは仕事に全力を注ぐのではなく、自分のエネルギーを管理することが必要となる。キャリアを長期的な成功に導くためには、ここで十分な休養を取ることが最善だと認識しなくてはならない。
それは、正式なサバティカル休暇を取得することかもしれない。あるいは、当面は新たに野心的目標を立てるのを控えたほうがよいと認識し、未来に向けて自分に鞭打つのをやめるという選択をすることかもしれない。
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短期的なプレッシャーは、常に長期的なキャリアプランを妨げる。社会全体が危機を経験した時期は、特にそうだ。自分の最終的な目的地がまったく見えていない場合であっても、本稿で紹介した戦略に従えば、自分にとってうまく機能しないことからは距離を置き、より希望に満ちた未来に向かうための適切なステップを踏むことができるはずだ。
"How to Make Progress on Your Long-Term Career Goals," HBR.org, March 25, 2022.