企業内ノマドの魅力
企業内ノマドという選択肢は、労働人口全体から見れば、まだごく一部にすぎないが、これからの数年間で、特に30代前半から50代の個人を中心に急速に広がると筆者は見ている。その理由を以下に挙げよう。
・フリーランスという選択肢は、プロフェッショナルとしてのキャリアの序盤と終盤において、今後も魅力的な選択肢であり続けるだろう。一方、住宅ローンや教育費、老後や将来の経済的自立に向けた貯蓄に追われる30代初めから50代の人々にとっては、安定した雇用関係は重要な経済的メリットをもたらす。
・経済的安定性に加えて、情緒的安定性と社会的安定性もウェルビーイングに資する極めて重要な要素だ。過去20年以上にわたり、ポジティブな心理的資本(PsyCap)の重要性に着目した研究が増えている。
自己効力感と楽観性、希望、レジリエンスという組み合わせは、一人きりではない状況のほうが身につけやすい。今後一段と厳しさを増す世界において、同僚との豊かなネットワーク、仕事上の居場所と仲間、自分に適合する文化は、これまで以上に貴重な資産となる。
・30代から50代の子育て世代にとって、頻繁な転勤のない安定した環境は、子どもの情緒的・社会的な健康と発達に大いに役立つ。哲学者のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテによる「子どもが親から得るべきものが2つある。根と翼だ」という言葉があるように、安定した地域社会と地元の友人や人間関係のネットワークは、子どもが力強く根を張るための助けとなる。
さらに、あなたが企業内ノマドとして身につけるグローバルな視点は、子どもの視野を広げることにも役立つ。また、バーチャルな友人や人間関係を介して広がる国際的なネットワークは、子どもが翼を広げて旅行や交流、国際親善、留学に飛び立つ後押しとなるだろう。
・大退職時代(グレート・レジグネーション)の波を乗り越えようとする中、転職することのリスクが高まっている。ザ・ミューズが2500人以上を対象に行った最近の調査によると、転職したばかりの人の72%が挫折を感じ、そのおよそ半数が前の職場に戻ることを検討しているという。
バーチャル面接では、求職者が新たな職場の環境を十分に把握するのが難しい。雇用主の側は大退職時代の影響で、非現実的なバラ色の未来を提示しなければならないというプレッシャーにさらされている。
企業内ノマドなら、「現在の」組織内でワクワクするようなパートタイムの仕事を見つけられるため、後悔することになりかねない転職のリスクを低減できる。いまいる職場の芝生が、最も青いかもしれないのだ。
・企業内ノマドになると、新たな人、新たな地域、新たな文化、新たな価値観、新たなプロジェクトとの接点が生まれ、ストレッチアサインメントを通じて自分を成長させることができる。
・最後に、将来フリーランスとして次のステージに進む場合、企業内ノマドとして豊かな経験を積むことは素晴らしいトレーニングの機会となり、人脈構築のプラットフォームにもなる。
筆者も企業内ノマドとして数十年の経験を積んだおかげで、大変貴重なグローバルネットワークを構築できただけでなく、根元的な次元で、学び続け、グローバルに貢献し続けたいという思いを持つこともでき、現在のフリーランスというステージに向かって成長できた。また、チャンスを嗅ぎつけ、あらゆる大陸にまたがる魅力的で、多様性に富み、変化を続ける人たちと連携するスキルを身につけることもできた。