筆者自身の企業内ノマドの冒険が始まったのは、リーダーシップアドバイザリー企業のエゴンゼンダーに勤めていた、30年以上前のことだ。
当時、家族の都合でブエノスアイレスに暮らしていた筆者は、現地の顧客向けの仕事に時間の大半を費やす一方、世界中のさまざまなグローバルイニシアチブにも積極的に参加し始めた。そこで研修イベントのグローバルチームへの参加、同社のエグゼクティブサーチプロセスの再構築、アセスメントと人材育成業務の創設など、魅力的なプロジェクトに次々と出合った。
アルゼンチン在住で、42カ国に67のオフィスを持つ企業に勤めていたから、当時は頻繁な出張を余儀なくされた。それでもあらゆる国籍や文化、宗教、価値観、スタイル、知識、経験を持つ魅力的な同僚たちを深く知り、一緒に仕事ができるメリットを考えれば、その労力は些細なものだと常に感じていた。
企業内ノマドという働き方は、グローバルに貢献するチャンスを広げると同時に、興奮と学びに満ちた旅へと導いてくれた。アルゼンチンという遠隔地にいる制約を考えれば、という意味だけではない。筆者が世界のどこかへの転勤を受け入れた場合に、その地で実現できたであろう貢献度と比べても、そのように言える。
このようなグローバルな活動と貢献を促進することは、個人的にメリットがあるだけでなく、組織が優秀な人材を維持・育成するためにも、ますます重要かつ効果的な手法となるだろう。
・先日、世界各地から100人以上のCEOがハーバード・ビジネス・スクールに集まり、夜も眠れないほど悩んでいる事柄について話し合ったところ、最大の課題は人材の採用と維持だと答えたCEOの割合が33%に上った(次に多かった課題は不確実性と不安定さ、インフレーション/スタグフレーションなどだが、これらを挙げたCEOはわずか10%だった)。
採用コストの高騰と採用難の高まりを考慮すれば、企業は人材維持につながる最善の方法にもっと注力するべきだ。知識労働者たちを引き留め、彼らのモチベーションを高めるカギを握るのは、より高い自律性と専門技能、パーパスを与えることだ。企業が企業内ノマドに対して、地理的、状況的、機能的な面で格段に豊富なパートタイムの選択肢を提供できれば、これら3つの要素すべてを成長させることができる。
・さらに、企業内ノマドの普及を推奨する組織は、この手法が社内の人材育成に多大なインパクトを与えると、すぐに気づくはずだ。大人になってからの成長の大部分は、仕事を通じて、またストレッチアサインメントを通じて実現する。物理的な転勤を必要としない形で、グローバルに成長できる道を開けば、従業員の能力を劇的に高めることができるだろう。