組織は何をすべきか
一方、組織の側も、企業内ノマドのメリットを最大限に引き出すために、カギとなる3つの原則を実行に移す必要がある。
(1)人材に関する見方を変えて、固定マインドセットから成長マインドセットに転換する
潜在能力の高い人材の育成プログラムを成功させるだけでは、十分ではない(それ自体も難題だが)。組織は、社員を潜在能力の高い人と低い人に厳密に区別する罠に陥ることなく、好奇心や洞察力、積極性、決断力がどう組み合わさっているかなど、一人ひとりのユニークな潜在能力を深く掘り下げるべきだ。経験や知識、さらには現時点での能力だけに限定せず相手を見ることで、リーダーは個人の成長や企業に対する貢献には幅広い方法があるとイメージできる。
(2)人材育成の手法を見直す
筆者は現在、爆発的な成長を遂げている世界的な大手サイバーセキュリティ企業のアドバイザーを務めている。同社の2月の求人は昨年12月から31%増加し、ウクライナ戦争勃発「以前」の時点で、すでに400%の年間成長率が見込まれていた。さらに言えば、サイバーセキュリティ関連の人材は、世界全体で数百万人規模の不足が生じているにもかかわらず、だ。
この組織は、真の意味でインクル―ジョンを育むことと並んで、成長の機会を本気で掴み取ろうとしている。360度評価プロセスの見直しを進めることで、全員が自分の真の潜在能力に気づき、その能力を引き出す方法を見つけられるようサポートしているのだ。
筆者らが『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した「潜在能力を開花させる経営リーダーの育成法」は、主要なリーダーシップ能力に応じて、従業員がどの程度成長できるかを組織が予測し、適切な機会を効果的に提供する手法を解説している。
(3)インセンティブシステムを見直し、グローバル人材の育成に力を入れる
優れた経営コンサルティング会社は、グローバル人材の育成に秀でている。インドのヒンドゥスタン・ユニリーバを例に取ろう。
同社は上級幹部のボーナスの半分を、彼らが育てたリーダーの数と質に連動させることで、優れたグローバルリーダーの宝庫になった。その結果、同社はユニリーバのグローバルネットワークで活躍する多くのシニアリーダーに加えて、他社でCEOを務める人材も400人以上輩出している。
企業内ノマドの台頭は、個人にも企業にも、仕事の充実と変化というメリットを享受できる素晴らしい機会をもたらしてくれる。しかも、従業員は自分にフィットしない間違った場所に飛び込む必要がなくなり、組織はそもそも失う必要のなかった優秀な人材の代わりを探さなければならない状況を避けられる。
ユーソノミクス(Youthonomics)創業者のフェリックス・マーカートは近著The New Nomad(未訳)で、次のように指摘している。遊牧生活の古代哲学の根幹にあるのは、移動そのものではなく、むしろそこで必要とされる心構え──開放性、好奇心、謙虚さ、新たな人や場所、概念を受け入れて探求しようとする意欲──であり、これらはいずれも企業のイノベーションとパフォーマンスの重要な源泉となる。
このような心構えはまた、個人の成長の源泉でもあり、私たちが現在のような不確実な時代に切望する、奥深い目的意識につながる。マーカートが指摘するように、「私たちは移動する時、単に移動先の場所について学ぶだけではない。自分が何者か、どこから来たかも発見することになる」。
企業内ノマドの台頭は、成功や幸福につながるだけではなく、私たちを根本的に、心から積極的に、グローバルな規模でインクルージョンを受け入れられるような、よりよい人間へと成長させてくれる。ノマド的なプロジェクトを経験するたびに、一歩ずつ。
"The Rise of the "Corporate Nomad"," HBR.org, March 30, 2022.