●相手の話を掘り下げ、真摯に耳を傾ける

 リーダーに対して定着のための対話のトレーニングを行っていると、「チームメンバーが自分では対処できない問題を持ち出したり、実現できない昇給や昇進を要求したりした場合、どうすればよいのか」という懸念を示されることが多い。

 筆者は決まって、こう答える。「起きていることを無視するよりも、理解したほうがよいのではないでしょうか」。たいていの場合、相手の懸念に真摯に耳を傾けると、その懸念を解消するか、少なくとも一緒に進むべき道を明らかにできることが多い。

 筆者の経験上、不安を抱えるリーダーは、物事がうまくいっている時でも、最悪の事態を想定して対話に臨む。

 チームメンバーが自分の体験を話している時は、真摯に耳を傾けることだ。そして、うまくいっていることを喜び、振り返ることで、相手の体験を掘り下げていく。

「在宅勤務はとてもうまくいっています。チームの効率性が上がった気がします」

・喜ぶ:「それは素晴らしいです。私も同じように感じています」
・振り返る:「何が変化を起こしたと思いますか」

「新しいアプリのローンチに携われて本当に嬉しいです!」

・喜ぶ:「それを聞いて、私も嬉しいです。あなたが注いでいる情熱は、素晴らしいと思います」
・振り返る:「その仕事で最も喜びを感じたことは何ですか」

 ●隠れたコミットメントを探す

 相手が、業務内容、リモートで働いていること、チャイルドケアの不足などについて、いら立ちを示したり、不満を口にし始めたりしたら、そのような不満の裏には必ずコミットメントがあることを思い出そう。解決策を提案したくなる気持ちを抑えて、相手が何にコミットメントしているか耳を傾け、それを捉え直し、一緒に対処するために何ができるかを尋ねる。

「毎日会議続きで、自分の業務をこなすのに毎晩夜中まで仕事をしている感じです」

・捉え直す:「素晴らしい仕事をするために力を尽くしていることはよくわかりますし、仕事を終えるための時間が日中に取れないと感じるのはイライラしますよね」
・振り返る:「あなたの状況をよくするために、私たちは何ができると思いますか」

「毎日同じことをしていて、自分のキャリアとして何も結果を残せていない気がします」

・捉え直す:「成長しようと本気で努力をしているけれど、いまは自分の成長を実感できていないのですね」
・振り返る:「あなたの状況をよくするために、私たちは何ができると思いますか」

 ●次のステップについて合意する

 最後の10分で、次のステップに話を移す。時間が不足して話せなかったことが複数ある場合は、別のミーティングを設定して対話を継続する。それぞれ取るべき行動がある時は文書化して、あなたがチームメンバーの話に真摯に耳を傾けたことがわかるようにしよう。

「今日のミーティングでは、率直に語っていただき、ありがとうございました。あなたの体験をすべてお話しいただいたことに、心から感謝します。約束した通り、○○を行い(自分が取るべき行動を挙げる)、2カ月後に再び対話の時間を設定したいと思います。その前に何かあれば、いつでもチェックインの時間を設けることができます」

 これは「余計な仕事」で、そのための時間はないと感じるかもしれないが、実際には、定着のための対話を「やらない」という選択をする時間はない。最も大きな影響を及ぼすのは、たいてい最もシンプルな行動であることを忘れないでほしい。


"How to Ask Whether an Employee Is Happy at Work," HBR.org, April 14, 2022.