リーダーが感謝を示すべき理由
●感謝を示すインパクトを過小評価してはいけない
感謝の気持ちを表しても、従業員にもたらす効果はほとんどないと考えるマネジャーもいるかもしれない。しかしながら、その認識は間違っていることを研究が示している。
たとえば、ある一連の研究では、被験者に感謝の気持ちを示す手紙を書いてもらい、さらに、その手紙を受け取った人がどのくらい驚き、喜び、あるいは気まずく思うのか予測してもらった。そのうえで、感謝の手紙を受け取った人に対して、実際にどのように感じたか尋ねた。
その結果、感謝を示す側は、受け手側が好意的な反応をする可能性を実際よりも著しく低く見積もる一方、気まずく感じる可能性を高く見積もっていることが明らかになった。ここで重要なのは、感謝を示す側の間違った期待が、感謝の気持ちを表現する意欲の低さと関連していた点だ。
さらに、感謝の気持ちを受け取ることは、仕事に対するエンゲージメントやパフォーマンスの向上と関連している。たとえば、母親から感謝された新生児集中治療室(NICU)のチームは、より多くの情報を共有するようになり、チームのパフォーマンス向上につながったという。
別の研究では、チームメンバーに感謝する理由を考えるよう促されたチームは、他のメンバーのアイデアをより真剣に検討し、他者のアイデアを徹底的に取り込むようになり、チームの創造性が高まることがわかった。
また、誰かが感謝されている様子を目にすると、感謝を示した人をもっと手助けするようになるという。つまり、感謝を示すことの恩恵はめぐりめぐって、感謝を示したリーダーに返ってくる可能性があるということだ。
●リモートワーク環境では、感謝を表すことが一段と重要かつ困難になる
コミュニケーションがバーチャルかつ非同期で行われる場合、メッセージを伝えようとしても、真意が失われたり、伝わりにくくなったりしがちだ。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックでテレワークが急拡大したことにより、感謝の気持ちを示すことはより重要になったが、同時により困難にもなった。感情を伝える時は、より豊かなコミュニケーション手段(例:対面)のほうが、その感情が本物だと認識される可能性が高いからだ。
ハイブリッドワークチームを率いるリーダーは、従業員と直接顔を合わせる機会が限られる中、その機会を利用して、対面で感謝の気持ちを示し、非言語の表現もはっきりと伝わるようにしなくてはならない。また、完全にテレワークのチームでも同様に、リーダーは音声だけのメディア(例:電話)や非同期メディア(例:メール)よりも、ビデオ通話のようにより豊かなコミュニケーション手段を優先すべきである。
加えて、従業員に感謝の気持ちを伝え、その人物の優れた働きを強調することで、職務の曖昧さ(テレワーク環境ではひときわ曖昧になりがちだ)を明確化する一助にもなるだろう。