
世界的にインフレーションが加速し、高水準で推移する中、消費者も企業も政府も投資家も、さらなる長期化に懸念を示している。この背景には、コロナ禍がもたらしたサプライチェーン危機がいまも解消せず、需要の回復に供給が追いついていない状況がある。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴う欧米諸国の対ロシア制裁が、混乱に拍車をかけている。保護貿易主義に回帰する可能性もある中、企業は長期化するインフレにどう対応すべきなのか。本稿では、国際情勢を踏まえたうえで、企業が実行すべき7つの戦略を論じる。
消費者は一般に、インフレーションを嫌う。物価が上昇すれば、実質購買力が低下するからだ。一方、企業は一定レベルのインフレならば望ましいと考える。現在の価格で行われた投資は、将来、より大きな利益やリターンをもたらすからだ。
政府も同様に、緩やかなインフレは好ましいと考える。長期債務を返済する際の実質コストが低下するからだ。また、雇用が好調を維持して、賃金の上昇を上回るペースで労働生産性が向上する限り、実質国民所得が増え続ける。さらに、住宅や株式などの資産価格は上昇し続け、経済に新たな投資を呼び込むことになる。つまり、経済成長が続けば、誰もがその恩恵を受けると考えているのだ。
そうだとすれば、なぜ消費者も企業も政府も投資家も、最近のインフレに関するニュースに特別な懸念を示しているのか。これまでのインフレと何が違うのか。
今回のインフレが高水準にある理由
第1に、商品やサービスへの需要がコロナ禍前の水準に回復したか、それを上回っているにもかかわらず、供給が追いついていないことが挙げられる。
新型コロナウイルス感染症がもたらしたサプライチェーン危機は、いまもなお解消しておらず、多くの商品が港湾や船内で足止めを食っている。その一方で、輸送費や貨物運賃、保険料は、パンデミック前の数倍のレベルに上昇している。
さらに、中国がゼロコロナ政策を堅持しているため、ロックダウン(都市封鎖)が実施されたり、世界で最も重要な製造拠点や物流拠点が閉鎖されたりしている。多くの工場は閉鎖されたままか、操業を再開していない。賃金は上昇を続け、企業は依然として優秀な人材の確保に苦労している。幅広い業界でトラック運転手が不足し、生産活動に必要なサプライチェーンに打撃を与えている。
第2に、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う欧米諸国の対ロシア制裁が、これらの問題をよりいっそう複雑にし、インフレに直接的・間接的な影響を及ぼしている。
欧州の工場にとって、ロシアが石油やガス、石炭の重要な供給国であることに変わりはない。また、ウクライナとロシアを合わせた地域は、穀物や飼料作物、肥料の世界最大の産地だ。そこからの供給が断たれれば、あるいは供給量が大幅に減るだけでも、これまでうまく機能していたグローバルサプライチェーンのシステムは大混乱に陥る。
たとえウクライナ戦争が明日終結したとしても、制裁や禁輸措置がすぐに解かれる可能性は低く、サプライチェーンの混乱解消には、数十年とまではいかないが、少なくとも数年かかるおそれがある。