●あなたに恥をかかせたり、罪悪感を抱かせたりしようとしてきた場合
もっとも抵抗しづらいのは、退職を決めたあなたに対して、上司が罪悪感を抱かせようとする場合だ。
筆者らがコーチングを行うクライアントは、退職に際して、上司から「これまで何度あなたをかばってきたか、わかっていますか」と言われた。そして上司は、組織に潜む危険から彼を守るために、どれだけ骨を折ってきたかを列挙し始めたという。
特に、あなたが上司と親しい関係にある場合は、すでに申し訳ないと感じていることだろう。それゆえ、罪悪感を刺激するような言葉は、胸の奥深くに突き刺さるかもしれない。その時は、次のように言うことができる。
「これまで、どれほど私をサポートしていただいたかはわかっているつもりです。そのすべてに対して、心から感謝しています。結論を出すのは簡単ではありませんでしたが、いまこそ前に進むべき時だと確信しています。一緒にお仕事できたことへの感謝は、ずっと忘れません」
●カウンターオファーを提示された場合
最後に、上司から「どのような条件が揃えば、会社に留まってくれますか」、あるいは「もしこちらが先方のオファーに匹敵するか、それ以上の条件を出した場合、どうしますか」と聞かれることも珍しくはない。
もちろん、これはネガティブな反応ではない。それどころか、会社でのあなたの役割を非常にポジティブに評価している証だ。とはいえ、あらかじめどう答えるか準備していなければ、困惑してしまうだろう。
重要なのは、退職を申し出る前に、どう対応するのかについてよく考えておくことだ。これ以上会社に留まるつもりはなく、次のステップにすべてを賭けるつもりなのか。それとも、給与面にせよ、他の条件にせよ、いまの会社で待遇を改善してもらえるならば、退職を考え直す余地があるのか。
前者の場合は、次のように言うことができる。「ご提案いただき、本当にありがとうございます。しかし、これは熟考したうえでの決断であり、次のステップに進むことが正しい選択であると確信しています。それでも、ご提案いただけたことを嬉しく思っています」
後者の場合は、次のように言うことができる。「カウンターオファーを引き出そうとして、お時間をいただいたわけではありません。私としては、新しいポジションに移るつもりでいます。ただ、この会社で働くのが好きということも本心です。先方のオファーに匹敵する待遇が本当に可能なのであれば、喜んで会社に留まりたいと思います」
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上司に退職を申し出ることは、職場で交わす会話の中で最も難しいものの一つだ。その際、上司がどのような反応を示すのか、予測するのは難しい。しかし、本稿で紹介したシナリオを検討し、あらかじめ戦略を立てておけば、どのような反応が返ってきても、思慮深く品位を持って対応できる確率が、はるかに高まるだろう。
"Preparing to Tell Your Boss 'I Quit'," HBR.org, May 06, 2022.