マイクロアグレッションに気づく力を高める

 英語には、支配的グループを優遇する社会構造に根差した、言葉やフレーズが数多くある。つまり、私たちの日常会話は、人種差別や性差別、その他さまざまな形の差別の歴史にルーツを持つ表現であふれている。

 たとえば、職場で何気なく使われる以下の表現には、相手を傷つけかねない意味合いが含まれている。

「ブラックリスト」がネガティブなイメージを持つ対象のリストであるのに対し、「ホワイトリスト」はポジティブなイメージを持つ対象のリストとされる。

・「マン・アップ」は「男気を見せろ」という意味で、相手に対して男らしく、毅然とした態度で立ち向かうことを求める表現だが、男性を強さや能力の高さと同等視している。

「ピーナッツギャラリー」は1800年代に生まれた表現で、劇場の中で最も安い桟敷席を指す。多くの場合、黒人で占められていた。

 これらの表現は、現在および過去の差別を想起させかねない。自分が使う言葉に意識を払う努力は、互いを尊重し合うための重要な要素だ。

 言葉に潜む、文化的な「地雷原」をすべて把握することは非現実的だ。目標は、一般に使われるフレーズの起源に思いを巡らせることである。さらに重要なことは、そのような表現に問題があると認識した時に、使い方を改めることである。たとえば、誰かを励ましたい場合は、「男気を見せろ」よりも「立ち上がろう」や「勇気を出そう」のほうが、思いを適切に伝えられる。

 私たちの文化的な「辞書」には、問題をはらむ言葉やフレーズが数多く蓄えられている。そのような表現を捨て去るには努力が必要だ。しかし、積極的にインクルーシブな態度を心がけようと決心すれば、大半の人にとって、そこまで難しい作業でないことがわかるだろう。

 職場の内外で耳にする可能性があるマイクロアグレッションの具体例を、以下に挙げる。

 ●人種/民族

・「あなたがユダヤ人だと気づきませんでした。ユダヤ人らしくないですね」。この表現は、「ユダヤ人の血を引く人はステレオタイプ的な外見を有している」というメッセージを送っている。当然ながら、さまざまなバックグラウンドの人が、これと似たような発言をされた経験があるだろう。

・「最も適性のある人物が、その職務にあたるべきだと思います」。人種を理由に、不当に優遇されている人がいることを示唆している。

 ●市民権

・「あなたの英語はとても上手ですね。ご両親はどちらの出身ですか」。第二言語として英語を使う人々は、一般的に英語の会話能力が劣るというメッセージを送っている。

・「ところで、本当はどちらの出身ですか」。その人が育った場所が、本当の出身地ではないことを示唆している。これは、移民だと見なされやすい民族的・人種的マイノリティの人々が、たびたび経験するマイクロアグレッションだ。

 ●階級

・「あの学校にどうやって入ったのですか」。相手のバックグラウンドでは名門校に入学するのは異例である、というメッセージを送っている。

・「貧しい環境で育ったようには見えませんね」。特定の社会経済的背景を持つ人は、見た目や行動に一定のパターンがあることを示唆している。

 ●メンタルヘルス

・「まるで狂っている」「クレイジーだ」。意外性や驚きを表現するために、メンタルヘルスの症状に関連する用語を使用している。

・「鬱病で落ち込んでいるようには見えませんね。悲しくなる経験は、私にも時々ありますから」。精神疾患を抱える人の経験を過小評価している。

・「私のOCDのことは気にしないで」。OCDとは強迫性障害の頭文字で、強迫観念や恐怖に悩まされ、強迫行為に至ることもある精神状態を指す。この表現を使うことで、細部へのこだわりや潔癖さ、あるいは何もかも秩序立っていなければ落ち着かない状態を表している。

 ●ジェンダー

・「そんなに神経質にならないで」。相手(女性である可能性が高い)が、あまりにも感情的になりすぎて、男性ならばもっと客観的に振る舞えるというメッセージを送っている。

・「ありがとう、スイートハート」。この表現以外の類似表現が女性に向けて発せられることがしばしばあるが、相手から喜ばれず、むしろ不快な思いをさせているケースも少なくない。

 ●セクシュアリティ

・"That's so gay"は「悪い、好ましくない」という意味の表現。ゲイであることが、ネガティブで望ましくない特徴と関連していると示唆している。

・「あなたには、妻/夫がいますか」。異性愛を標準とする文化を前提としている。これに対して、「パートナーはいらっしゃいますか」と尋ねるのは、よりインクルーシブな表現だ。

 ●子どもの有無

・「お子さんのお迎えに行く必要がないから、遅い時間まで働けますね」。子どものいない人には、仕事以外の生活がないというメッセージを送っている。

 職場では、あらゆるタイプの会話の中で、マイクロアグレッションが発生する可能性がある。たとえば、採用で自分と異なるバックグランドを持つ応募者を評価する場面、パフォーマンス評価で従業員のポジティブな側面とネガティブな側面に着目する場面、カスタマーサービスで自分の母語と異なる言語を用いる顧客を相手にする場面などだ。

 マイクロアグレッション全般への意識を高めることは万人に要求されるが、プロフェッショナルとして働く環境では、使用する表現に特段の注意を払い、配慮する必要がある。