Illustration by Aaron Marin

マイクロアグレッション(無意識の差別的な言動)の問題について議論する際、「社会が『過敏』になりすぎている」という反論がなされることがある。だが、リーダーが積極的に是正しなければ、従業員の心身の健康を蝕むだけでなく、キャリアにもネガティブな影響をもたらす。従業員のバーンアウト(燃え尽き症候群)や職務満足度の低下を招き、企業の損失も計り知れない。インクルーシブで健全な職場をつくるには、そのような言動に気づき、適切な方法で介入することが欠かせない。本稿では、マイクロアグレッションがどのような形で現れるのか理解し、正しく対処するための方法を論じる。


 誰しも職場で、自身のアイデンティティのある側面に対して敵対的、あるいは攻撃的だと思える言動をされた経験がある。そして、相手は自分の言動に問題があったことに気づいてすらいない。

 この手の言動──無神経な発言や質問、思い込み──は「マイクロアグレッション」と呼ばれ、人のさまざまな側面に向けて発せられる。人種や性別、セクシュアリティ、子どもの有無、社会経済的背景、メンタルヘルスをはじめ、私たちのアイデンティティのあらゆる側面に対してマイクロアグレッションが発生しうる。

 マイクロアグレッションは、伝統的に疎外されてきたアイデンティティグループに向けて発せられるケースが多いものの、どのような経歴であれ、どのような職業レベルであれ、あらゆる人の身に降りかかる可能性がある。

 たとえば、黒人女性にとって、「あなたは私が知っている黒人とは違う」という表現はマイクロアグレッションになりうる。その人が黒人のステレオタイプに当てはまらないことを示唆しているからだ。

 一方、白人男性にとっては、「あなたなら馴染めるかどうかを心配する必要はまったくありませんよ」という表現がマイクロアグレッションに当たるかもしれない。白人男性なら誰でも、常に居心地のよい状態で過ごし、周囲に受け入れられることを示唆しているからだ。

 マイクロアグレッションの根底には、基本的に、単純で有害な発想がある。「あなたはXだから、おそらくYだ/Yではない、Yを好む/Yを好まない」という発想である。

 マイクロアグレッションをめぐる言説に対して、「社会が『過敏』になりすぎて、何気ない発言が大げさに取りざたされる」という反論がなされることがある。だが、一見取るに足らないような発言が、キャリアを通じて、身体の健康と精神の健康に多大な影響を与えることが、研究から明らかになっている。具体的には、鬱病の罹患率の増加、ストレスとトラウマの長期化、頭痛や高血圧などの体調不良、睡眠障害が挙げられる。

 マイクロアグレッションは、キャリアにネガティブな影響を及ぼしかねない。バーンアウト(燃え尽き症候群)の増加や職務満足度の低下と関連があり、回復するために多大な認知的・感情的リソースを必要とするからだ。

 さらに、2021年の大退職時代(グレート・レジグネーション)の到来を受け、雇用主の間では、従業員の退職希望に対して組織文化がどのような影響をもたらすかという点に関心が高まっている。ある調査研究によれば、労働者の10人に7人がマイクロアグレッションによって動揺するだろうと答え、そのような行為がきっかけで離職を考えると答えた人は半数に上った。

 つまり、マイクロアグレッションの影響力は「マイクロ」(極少の)とは言いがたいのが現実だ。これは、マイクロアグレッションの中核には不敬のシグナルがあり、不平等な態度を反映したものだからだ。

 インクルーシブで温かな雰囲気に満ちた健全な職場をつくるため、私たちは積極的にマイクロアグレッションと戦わなくてはならない。

 そのためには、マイクロアグレッションがどのような形で現れるか理解し、その対象が自分自身であれ同僚であれ、生産的に対処する方法を知る必要がある。インクルーシブな職場環境とは、単に「あれば好ましい」というだけでなく、従業員のウェルビーイングと心身の健康にポジティブな影響を与えるものだ。

 インクルーシブな職場を構築するには、性差別や同性愛、人種差別といった難しい話題について、率直かつ真摯に意見を交わす必要がある。そのような会話の中で、自分が不適切な発言をし、マイクロアグレッションを犯してしまうのではないかと不安を感じるのは、自然なことだ。

 マイクロアグレッションの現れ方に対する意識が高まるほど、職場のマイクロアグレッションを減らす取り組みを進めやすくなる。ただし、私たちの誰もが間違いを犯すことを考えると、マイクロアグレッションを目撃したり、自分自身がマイクロアグレッションを行ったりした場合の対処法も知っておかなくてはならない。

 DEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)に関する筆者の新書The Necessary Journey(未訳)でも書いたように、最初のステップとして、マイクロアグレッションの存在を認識することが欠かせない。本稿では、マイクロアグレッションに気づく力を高め、その場面を目撃した時は介入し、マイクロアグレッションの少ない職場文化を育む方法をいくつか紹介する。