リーダーが知っておくべきこと

 マイクロアグレッションは個人レベルで起きることが多いが、インクルージョンへの取り組みを謳う企業は、その言動がどの従業員に向けられたものであっても、排他的・差別的な言動についてはゼロ・トレランスの姿勢で臨まなくてはいけない。

 リーダーは、マイクロアグレッションのトピックに関する研修機会を提供することで、基準を示すべきだ。ただし、マイクロアグレッションは気づかぬうちに深刻化する性質を持つため、リーダーやHR担当者がそのような違反行為に気づいたら、その人物の振る舞いを正す責任がある。

 マイクロアグレッションの多くは、是正されなければ組織文化の一部となりかねない。

 たとえば、筆者が協働している企業の中には、同じ人種の従業員が頻繁に混同され、それが「うっかりミス」で見過ごされている例がいくつも見られた。人は誰しも間違いを犯すものだが、同じグループの人々に対して、同じタイプの出来事が継続的に起きている場合、リーダーはその行動を正さなければならない。

 筆者はあるクライアントから、同じチームのアジア系女性2人が名前をよく混同され、彼女たちは自分が交換可能な人間かのように感じているという相談を受けた。そこで筆者は、相手の名前を呼び間違えた人に、その場で丁重に指摘するツールを提供し、同じ人種の人物を混同することが不快な行為とされる理由を伝え、一般的な注意喚起も行った。

 この会社は、従業員が互いの名前を覚えることを後押しし、新たに加わった同僚と親しくなるために個人的交流を持てる場を用意した。さらに、パンデミックの時期にリモートワークをしていた従業員がオフィスに戻った際は、賞品付きの「名前当てクイズ」も実施した。

 これらの取り組みを通じて、この会社は不適切な行動を改めるべきだと呼びかけるだけでなく、同僚の名前を知っていることがチームメンバー全員にとって重要だと明示し、企業文化を変革した。

 究極的には、マイクロアグレッションに気づき、上手に対処できるようになること、そして日々の言動に対する意識を高めることは、職場のメンタルヘルスとウェルビーイングに実質的な影響をもたらす「旅」のようなものだ。

 マイクロアグレッションはあらゆる人に影響を与えるので、よりインクルーシブで多文化対応力の高い職場文化を構築するためには、私たち一人ひとりがどのような偏見を持っているか追求し、マイクロアグレッションの存在を認識する必要がある。その目標は、互いにコミュニケーションを取るのを恐れることではなく、コミュニケーションに意識を巡らせる機会として受け入れることだ。

 従業員が成功を収められるインクルーシブな文化は、一夜にして醸成されるものではない。そのためには、継続的に学び、進化し、成長するプロセスが不可欠である。


"Recognizing and Responding to Microaggressions at Work," HBR.org, May 10, 2022.