
2021年以来、30~45歳のミドルキャリア層を中心に、膨大な数の労働者が退職している。彼らの退職理由はコロナ禍によるものだけではない。仕事に対する不満はパンデミック前から存在し、早ければ20代半ばから不満を抱き始める。マネジャーは金銭的報酬を与えて離職を防ごうとするが、その場しのぎの対応策にしかならない。従業員は金銭よりも、日々の仕事が、組織の大きな目標に結びついているという実感を求めている。本稿では、従業員の離職を防ぎ、再びエンゲージメントを高めるために、彼らが何を求めているのか理解し、必要とされるものを提供するための4つの方法を紹介する。
誰かがあなたのオフィスのドアをノックする。そこに立っていたのは、最も優秀な部下だ。手には退職願が握られている――。
さて、あなたはまず、どのような行動を取るだろうか。これまでの常識では、従業員の心をつかむ最善の方策は、給料の引き上げと、手当や福利厚生の充実だ。
そこで、あなたはこの処方箋に沿って行動する。幸い、この時は部下の引き留めには成功した。しかし、その半年後、またオフィスのドアがノックされる。その従業員が、再び退職願を持ってやってきたのだ。
2021年と2022年、膨大な数の労働者が退職している。転職先が決まっていない状態で退職した人も少なくない。この傾向は、30~45歳のミドルキャリアの従業員の間で特に目立つ。ミドルキャリアの2021年の平均退職率は、2020年に比べて20%も高かった。
ただし、この問題は30~45歳の年齢層だけに見られるわけではない。また、彼らの退職理由は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに起因する不満に限らない。
筆者らは2019年1月から2021年12月にかけて、さまざまな業界で働く5600人以上を対象に調査を行った。その結果、25歳頃から、仕事に不満を抱き始める人がいることが明らかになった。そのような不満は、パンデミックで世界が大混乱に陥る前から存在していた。
マネジャーが従業員の退職を防ぎたいと考え、金銭的な解決を試みたとしても、その場しのぎの対応策にしかならない。筆者らの調査データでは、25~45歳の労働者のうち、職務満足度を左右する最も大きな要因として賃金を挙げた人は38.2%に留まる。にもかかわらず、マネジャーたちが従業員を引き留めるために用いる最も一般的な手段が、賃金の引き上げだ。
筆者らの調査で、従業員が何より欲しているのは、刺激を得られる仕事であり、自分という存在と自分自身の仕事が調和した状態であることが明らかになった。
そのような仕事をしている人は、エンゲージメントが高まり、生産性が向上して、忠誠心も強くなる。自分は大きな目的のために働き、日々の仕事がその目的の実現に結び付いていると感じたい。そして、そのために自分がどのような役割を担うかを自分自身で決めたい――。従業員たちは、そう思っている。
このような従業員のエンゲージメントを再び高めたいと考えるリーダーは、従業員が望んでいるものや必要としているものを提供できるように努めるべきではないか。すなわち、仕事と私生活の調和、刺激的な体験、自分で物事を決定できる状況、新たな知見を提供すべきだ。金銭を与えるだけでは不十分である。
では、具体的にどうすればよいのか。そのための4つの方法を紹介する。