ブラックボックスを開ける

 格好の例として、取締役やCEOとして成功しているエディス・クーパーの経験を紹介しよう。彼女はある時、白人男性の同僚からこう言われたという。「もはや、今後20年間(取締役になる)チャンスはない。とにかく彼らが欲しいのは、女性だけだ。エディス、君は引く手数多に違いない。そう、黒人女性としてね」

 このようなタイプの侮辱は、「コンピテンシー・マイクロアグレッション」として知られる。黒人や女性の従業員に向けられることが多く、彼らの能力に対する期待の低さ、アファーマティブ・アクション採用であるという思い込み、あるいは彼らが能力を発揮した時の驚きなどを示す。

 人種にまつわるマイクロアグレッションの害が示されている黒人従業員の経験の研究は数多くあるが、それらは過去の経験についての報告や説明に依存している。そこで、筆者は新たな研究で、黒人労働者に対するコンピテンシー・マイクロアグレッションの実際の影響、つまりその瞬間の影響を明らかにすることにした。

「ブラックボックス」と呼ばれる、隠れた不平等のメカニズムに関する実証データを収集するため、筆者は黒人300人を対象に実験を行い、コンピテンシー・マイクロアグレッションの経験がどのような影響を与えるかを検証した。被験者は、オンラインクラウドソーシングの調査ツール「プロリフィック」で募集した。

 被験者はそれぞれ、パートナーと組んでタスクを行った。パートナーは実在すると被験者は思っていたが、実際にはコンピュータでシミュレートされたものだ。タスクを開始する前に、一部のチームにはどちらがリーダーになるか割り振られ、リーダーが決められていないチームは意思決定において同等の影響力を持つと説明を受けた。

 そのうえで、実験群の被験者は、パートナーから次のようなメッセージを受け取った。「黒人だから、きっと君がリーダーに選ばれるよ(笑)」。このような発言は、黒人従業員が頻繁に経験するコンピテンシー・マイクロアグレッションであり、アファーマティブ・アクションの一環として「他の要因は関係なく、単に黒人だから成功したのだ」という認識が示されている。敵意や脅迫と受け取られないように、しばしば冗談として表現されることが少なくない。

 意思決定においてすべてのチームが同じ影響力を持つようにしたうえで、被験者の感情反応を評価し、それに対する発言を捉え、コメントがパートナーとの関わり方にどのような影響を与えるかを測定した[著者注]