チームが被る代償

 筆者の研究では、コンピテンシー・マイクロアグレッションは、チームの共同作業の有効性を妨げる可能性があることも明らかになった。健全な服従はグループの協力を促進するため、チームにおいて重要な役割を果たす。ある人が正当なリーダーであると見なされると、それ以外の人は、自分が道理をわきまえた人間だと見られるために、またグループの共同作業に貢献するために、リーダーに従うようになる。

 誰かの考えに従うということは、自分が貢献することに価値があると考えている表れだが、そこには自分の考えが採用されないという個人的代償も伴う。さらに、人種や性別によって従うべき相手が決められると、チームに害が生じる。たとえば、男性優位の文化において女性が男性に従うことが常態化していると、チームは女性の貢献を見過ごすだけでなく、女性を昇進の対象から外してしまう。

 筆者の実験で明らかになったように、マイクロアグレッションは服従行動に深刻な影響を与える。マイクロアグレッションを経験した被験者は、もう一人のチームメンバーに対してネガティブな感情を抱いたために、相手に従うことが少なかったのだ。言い換えれば、ネガティブな感情を抱いたことで、意思決定に向けてより客観的な根拠を用いる能力が制限されたのである。これは、チームがどのように機能するか、そしてマイクロアグレッションを経験した人がどのように評価されるかに、深刻な影響を与える可能性がある。

 マイクロアグレッションを経験した人が、服従の姿勢を強めたとしても、それがよりよい解決策というわけでもない。人種差別に基づく行動を放置すれば、結果としてその対象となっている人が影響力を得ることはできないからだ。このように、黒人従業員にとっては「マイクロアグレッションにどのように対応しても、裏目に出るおそれがある」というダブルバインドが存在する。

 今回の実験では最後に、被験者にパートナーについての感想を報告してもらった。すると、コンピテンシー・マイクロアグレッションを経験した被験者のうち、実際にそのことを報告したのは29%に過ぎなかった。

 マイクロアグレッションが過小報告されていることはわかっていたが、この数字は、実験の状況を考えると特に驚くべきことだ。筆者の研究に参加した被験者は、現実世界の組織で働く人々のように、マイクロアグレッションを報告したことによる反発や雇用喪失の可能性に直面してはいるわけではないからだ。そうなると「実際の組織ではこの数字がどれだけ低くなるか」という次の疑問が生じる。

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 多くのリーダーが、社会から疎外されたグループのメンバーにとって公平な組織をつくるための取り組みを強化しているが、黒人従業員が職場で無礼な扱いを受け続けていることを示す証拠はさまざまある。黒人のプロフェッショナルは人種にまつわる発言に対処するという困難に直面しており、組織はマイクロアグレッションの防止と、マイクロアグレッションに伴う黒人従業員の感情労働の緩和に責任を持たなければならない。

筆者注:実験の被験者に与える損害を最小限にするため、彼らには黒人コミュニティ向けのメンタルヘルスに関する情報が提供された。また、研究の真の目的を伝え、実験に参加することでどのような利益が期待されるかについても説明がなされた。

"Research: The Real-Time Impact of Microaggressions," HBR.org, May 17, 2022.