ビジョン

 最も効果的な戦略には、往々にして共通の特徴がある。大胆かつ明確な未来のビジョンに基づき、そのビジョンが現在のビジネスのパーパスに据えられているというものだ。

 1980年、ビル・ゲイツは「すべての机と、すべての家庭にコンピュータを」という、誰もが知る大胆かつ明確なビジョンを打ち出した。マスクが手掛ける企業も同様に、それぞれが大胆で明確なビジョンを掲げている。

 たとえば、テスラは「世界の持続可能エネルギーへの移行を加速させる」、スペースXは「人類を多惑星で生きられるようにする」といった具合に、だ。ただし、マスクを真の意味で理解するには、彼の多面的なビジネス全体にまたがる総合的なビジョンを知る必要がある。

ソリューションではなく、課題を追求する

 ビジョンとは、ある特定の「ソリューション」を探求することだと思われがちだが、マスクのアプローチは異なる。彼は、特定の「課題」を追い求めている。具体的には、規模の大きさや、複雑さを克服するような課題に興味を惹かれるようだ。

 まず、「規模の大きさ」とは、大規模な固定費をかけることによってのみ解決可能な課題をマスクが選んでいるという意味である。テスラの巨大な「ギガファクトリー」を例に取ろう。ギガファクトリーの背景には、幅広い商業市場で通用するコストで電気自動車の大量生産をするためには、巨大な工場が必要だという発想がある。テスラの5番目のギガファクトリーである「ギガ・テキサス」は、世界最大の床面積を持つ工場だ。

 第2に、数多くの複雑な問題を克服する──つまり、互いに影響し合う複数の不確定要素に対処する──ためには、時間をかけ、失敗に耐えるスタミナが必要となる。

 マスクがスペースXで取り組んでいる再利用可能なロケットの開発は、極めて難しい仕事だ。ロケットを再利用するためには、時速3000マイル近くから安全に着陸できる速度にまで減速し、正確な位置に着地させなければならない。

 この手の課題は、持続的な競争優位をもたらす可能性がある。その課題を解決できれば、の話だが。

 筆者らの同僚やそのほかの研究者による長年の研究によって、必要な規模を確保し、複雑さを克服するような取り組みは、競争優位性を持続的に生み出す源泉となりうることが示唆されている。ただし、そうした課題解決は、気の弱い人には不向きだ。筆者らの同僚であるハーバード・ビジネス・スクール教授のデイビッド B. ヨッフィーがイーロン・マスクに関する広範囲に及ぶ研究の中で指摘したように、「大きな賭け」に出る必要があるからだ。