ソリューションとしての課題

 このような大規模かつ複雑な課題に特化したビジョンには、いくつかの利点がある。

 利点(1)パフォーマンスの進展が予測可能

 大規模な課題の解決は困難なものだが、時間の経過とともに生産量を増加させ、ユニットを構築することで、単位当たりのコストを予測可能な形で削減できる。これは「経験曲線」と呼ばれる複合効果だ(経験曲線の最も有名な例としては、コンピュータの性能は2年ごとに倍増するというムーアの法則がある)。

 マスクが経験曲線が生じるという仮定を(少なくとも暗黙的に)当てにしているのは、明らかだ。彼は、生産方法の改善による技術的な規模の経済を拠り所として、バッテリー生産能力を大幅に増強し、バッテリーのコストを半減させたいと考えている。

 利点(2)壮大な目標へのモチベーション

 大きな課題の解決策を模索することは、組織のモチベーションを高め、従業員が野心的な成果を上げる後押しとなる。とはいえ、大半の人がそうした課題に桁外れの恐怖心を抱くのももっともだ。なぜなら、取り組み始めたり挑戦したりする価値もないくらい困難な仕事に思えるからである。

 マスクはほかに例を見ないほど、そのような課題に積極的に取り組む人物で、彼の会社の従業員も、自分たちが一見不可能に思える壮大な目標に挑んでいるとはっきり自覚している。

 マスクがスペースXのエンジニアであるスティーブ・デイビスに対し、デイビスが12万ドルと見積もっていたロケット「ファルコン1」の部品を5000ドルで作るよう求めたのは有名な話だ。結局、デイビスはその部品を3900ドルで納品した。

 ただしマスクは、自分は達成可能な要望しか出さないと主張する。「不可能な目標を設定することはない。不可能な目標はやる気を失わせると思う」。