組織づくり
●すべてを自社で
マスクの戦略のうち、最もわかりやすく一貫性がある特徴は、事業の組み立て方である。具体的には、垂直統合とクローズド・テクノロジー戦略を採用している。
垂直統合
垂直統合された企業は、ビジネスバリューチェーンにおけるさまざまな事業活動を直接的に所有し、運営を行っている。スペースXは、ロケット「ファルコン9」の約70%を自社で製造している。NASAの宇宙船の打ち上げを行うユナイテッド・ローンチ・アライアンスがシステム統合と打ち上げ業務のみを担い、そのほかの業務すべてを1200社の下請けに頼っているのとは対照的だ。
また、テスラは原材料のリチウム採掘事業を後方統合するという野心を抱いている。これに対し、従来型の自動車OEM(相手先ブランドによる生産)は、重要な部品の供給を市場の第三者に依存している。
クローズド・テクノロジー
クローズド・テクノロジー戦略を取る企業は、他社との相互運用性がない独自技術を構築する。スペースXのスターリンク衛星には極めて独自色の強い技術が使われており、ほかの衛星受信アンテナでは事実上、利用不可能だ。米国におけるテスラの充電ネットワークも、ほかのメーカーの車では使うことはできない。
これに対し、オープン戦略とは、他社との相互運用を可能にすることでエコシステムの標準を設定しようとする試みだ。
世界最大級のテクノロジー企業はほぼすべて、マスクよりもオープン戦略に依存している。たとえば、グーグルはヒューレット・パッカードやエイサー、インテルと協力し、アンドロイド携帯とウィンドウズPC間の高速ペアリングサポートの立ち上げに取り組んでいる。
オープン戦略のメリットは、価値を創造するネットワーク効果によって、リターンを増大させ、「勝者総取り」の市場を生み出せる可能性があることだ。