課題に取り組むことで起きる課題

 大規模かつ複雑な課題への取り組みに根差したビジョンは、それ自体が問題を引き起こす。ここでは、2つの問題に絞って取り上げよう。

 問題(1)プロジェクトに関する予測の難しさ

 大半の人は、正確な予測が苦手だ。人は直線的に考えて予測を行うものだが、複雑さはそれよりはるかに速いスピードで拡大する。ハーバード・ビジネス・スクール博士課程のアティカス・ピーターソンと筆者の一人、ウ―の研究が示すように、起業家は特に複雑なプロジェクトにおいて、現実的なスケジュールを設定することにいつも苦労している。

 自身も認めるように、マスクも例外ではない。スペースXが運営する衛星インターネット企業スターリンクは、2015年にマスクが予測した10年後の到達地点にまだ遠く及んでいない。2022年3月の時点で、スターリンクの加入者数は2025年の目標数のわずか0.625%、売上げは目標値の1%に過ぎない。

 いまのところ、市場はマスクに対し、常に矛盾に満ちたこの状況を乗り切るために異例の猶予を与えているが、この手の予測の失敗は大半の経営者にとって破滅を意味する。

 問題(2)従業員が燃え尽き症候群に陥る

 壮大な課題を追求する際のマイナス面は、ソリューションを見つけるまでの道のりが長く、その過程で多くの挫折を味わうことだ。そのため、燃え尽き症候群や幻滅といったリスクが待ち受ける。

 テスラの元製造担当マネジャーは、週70時間労働も珍しくなく、テスラを解雇されたことが結婚生活において最高の出来事だったと語っている。マスクの伝記を著したアシュリー・バンスによると、スペースXの採用担当者は新入社員に対し、「最高にハードに働きたいなら、ここは素晴らしい職場だ。そうでないなら、来るべきではない」と伝えるという。

 最終的に、「約束の地」に到達するまでの長い年月にわたって、マスクの組織が今後もこのような労働環境を維持できるのか。この点は、いまだに解決されていない問題である。