●トータルコントロール

 以下に挙げる組織的な選択には、明らかなメリットがあり、学べる点が多い。

 新たなエコシステムの立ち上げ

 新しいテクノロジーを市場に投入する際は、「鶏と卵」の問題が付きまとう。製品を世に出すには補完的な製品の供給が必要だが、その供給者はまだ存在せず、起業家は市場にまだ出ていないテクノロジーに自身の運命を委ねたくはないだろう。

 この問題を解決するには、2つの方法がある。1つ目は、市場のタイミングを計り、エコシステムの成熟を待つ方法だ(ただし、長期間待たされるリスクを伴う)。

 2つ目は、自分で市場を動かすこと。つまり、必要なインプットと補完製品をすべてみずから供給する方法だ。

 初期の電化製品を例に取ろう。電球や電気洗濯機が存在しなければ、発電用タービンを売るのは難しい。そこでゼネラル・エレクトリック(GE)は20世紀初頭、発電機と電化製品の両方を売り出した。

 マスクもテスラで、電気自動車と充電ステーションの両方を提供することにより、みずから市場を動かす方法を選んだ。

 より多くの価値を獲得する

 エコシステム全体をコントロールすることによって、企業は非常に大きな価値を手に入れられる。たとえば、アップルは自社専用の充電ケーブルを製造することで追加利益を得られるが、オープンなUSB規格を採用している企業は得ることができない。さらに、引き出しの中にライトニングケーブルを何本も持っている人は、アップル製品を買い続けるほうが便利だと考える可能性もある。

 アップルの例と同じく、テスラの車および充電ステーション(全米のネットワークと各家庭)で使用されている独自の充電アダプターも、ゆくゆくは価値を生み出すだろう。すでにテスラの充電ステーションを自宅に設置している人は、今後もテスラ車を買い続けるほうが便利だと考える可能性が高いからだ。

 ●すべて自社で実行することのリスク

 すべてを自社でまかなうというマスクの戦略は、短期的には正当化できるが、長期的に見ると、重大なリスクをはらんでいる。

 市場のメリットを取りこぼす

 すべてを自社で実行することによって、より低価格で製品やその補完製品を提供できたり、新たなイノベーションを主導できたりする第三者が将来的に登場した際に、市場を活用できなくなるというリスクを負う。幅広い製品を自社で提供したGEの手法は、初期においては理にかなっていたが、いまとなっては洗濯機と風車を同一の企業が手掛ける必要はない。

 インテルが目下、悩まされているのもこの問題だ。同社は何十年にもわたって、プロセッサーの設計と製造の両方を自社で担う垂直統合型の戦略を続けてきたが、その戦略によって現在、窮地に立たされている。インテルの製造技術が、半導体製造を専門とするTSMC社に後れを取ったとき、インテルの半導体の設計者が社内の製造能力に手足を縛られ、技術的にも組織的にも動きを制限されてしまったのだ。

 マスクも同様の問題にぶつかるおそれがある。バッテリーの画期的な技術が社外からもたらされても、テスラは自社のバッテリーを購入し続けなくてはならず、長期にわたって不要な多額のコストを負担せざるを得なくなる可能性がある。

 エコシステムにおけるネットワーク効果の阻害

 テクノロジー企業は、長期的な価値創造と短期的な価値獲得との間に根本的なトレードオフを抱えている。独自のアプローチを選択するのは本来的に、第三者がエコシステムに貢献する道を制限することになるのだ。

 たとえば、マスクが設立したトンネル掘削企業、ボーリング・カンパニーが計画している直径12フィートのトンネルは、都市部の地下鉄で使われている標準的なものより直径が5フィート分短く、既存の鉄道との互換性がない。仮に同社独自の輸送システムが成功すれば、同社の技術への信頼は強固なものになるだろう。だが、うまくいかなければ、トンネルや機械にほかの使い道はなく、外部からの支援も得られない。