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エイブラハム・リンカーン、マザー・テレサ、エレノア・ルーズベルト、ネルソン・マンデラ、マハトマ・ガンジー——。彼らに共通するのは、正式なリーダーシップの訓練が乏しくとも、傑出したリーダーとして大きな実績を残している点だ。このディスラプションの時代、誰もがリーダーシップを発揮し、変革を推し進めなければいけない中、平凡な人たちが類い稀なるリーダーシップを発揮するにはどうすればよいのか。本稿では、「小さなステップと大きな跳躍」を目指すアプローチを通じて、リーダーシップを習熟する方法を論じる。

類い稀なるリーダーシップの原点

 有機化学者のジュリーは、ある研究所で薬品の研究に取り組んでいた。彼女の上司であるゴードンは評価の高い科学者だったが、気まぐれで、すぐ感情的になる気難しい人物だった。

 ある日、ジュリーはゴードンのオフィスを訪ね、共同執筆している研究論文の草稿についてフィードバックを求めた。その原稿は、ジュリーが何カ月もの間、力を注いできたものだった。しかし、ゴードンは彼女の草稿を、それまで読んだ論文の中で「最悪のごみくず」と切って捨てた。

 その時、ジュリーは次のように返答した。

「ゴードン、あなたが私の原稿を『ごみくず』だと感じたことには、少しも驚いていません。正直なところ、執筆している間、私も同じように感じていました。要領を得ない文章をただ書き連ねているように感じていたのです。

 その点、あなたの書く論文には、いつも惚れぼれしています。非常に明確でわかりやすい文章だと思います。実際、私があなたと一緒に働きたいと思った理由の一つは、ここにあります。昨年の秋、オファーをいただいた時に胸が躍ったのも、それが理由です。
 
 私たちの研究成果は、非常に重要なものになる可能性があります。論文が上手にまとめられていれば、とてつもなく大きなインパクトを生み出せるはずです。

 私が書いた草稿は、少々手直しするだけでは、使い物にはならないかもしれません。それでも、論文を改善する方法について、お知恵を借りることはできないでしょうか。私はあなたから、少しでも多くのことを学びたいのです」

 ゴードンの機嫌は、すぐに直ったように見えた。ゴードンは草稿を改めて精査し、問題点を指摘し、改善案を教えてくれた。ジュリーが修正した論文は、学界でもトップレベルの専門誌に掲載され、大きな賞を受賞した(このストーリーは、著名な心理療法家で医学博士のデビッド・バーンズの著書で紹介された実話に基づいている)。

 ジュリーとゴードンのやり取りでは、どちらがリーダーで、どちらがフォロワーといえるだろうか。

 私たちは時折、ジュリーのように正式なリーダーシップの訓練を受けていない人たちが、目覚ましいリーダーシップを発揮している例を目の当たりにすることがある。そして実際、歴史上の伝説的存在になっているリーダーの多くは、ジュリー以上に、正式なリーダーシップの訓練を受けた経験が乏しいように見える。

 たとえば、エイブラハム・リンカーンは、学校教育を1年しか受けていない。マザー・テレサとエレノア・ルーズベルトは、大学で学んでいない。ネルソン・マンデラとマハトマ・ガンジーは、本人の説明によれば、学校で劣等生だったという。

 では、どうすれば、平凡な人たちが類い稀なるリーダーシップを発揮できるのか。

 今日の組織にとって、これほど重要な問いはないかもしれない。ディスラプションにより、従来のやり方が通用しなくなりつつある。そのような状況では、組織の最上層にいる一握りのリーダーだけで、未来を構想し、変革を推し進めるという重責をすべて担うことは不可能だ。

 ガートナーが、世界の従業員6500人以上と最高人事責任者(CHRO)100人以上を対象に行った調査では、「とりわけ優れた企業は、経営幹部ではなく、従業員に変革を主導させている」ことが明らかになっている。