1つ目は、リーダーシップを発揮した人たちが同様の意図を持って、その状況に臨んでいたことだ。具体的には、「私たちに共通するポジティブなパーパスの追求に向けて、自分自身とほかの人たちが最善であるためには、どのように行動すべきか」と考えるのだ。
2つ目は、その目的を達成するために、自分自身とほかの人たちに対して、以下の5種類のエネルギーのうちの一つ、もしくは複数を活性化させていることだ。
・パーパス:高潔で、人々の精神を高揚させるような大義の追求を目指す。
・知恵:どのような場面でも、細かいニュアンスも含めて、真実を冷静に受け入れる。
・成長:みずからの潜在能力のすべてを開花させようと努め続ける。
・愛:温かみと理解、つながりを育む。
・自己実現:みずからの核を成す人間精神を芽生えさせる。
3つ目は、シンプルなアクションにより、これらのエネルギーを自分自身とほかの人たちの中で高めていることだ。たとえば、ジュリーの場合、以下の5つのアクションを通じて、知恵、愛、パーパス、成長のエネルギーを活性化させた。
(1)警戒を解く:まず、ゴードンの厳しい指摘には一理あると認めることから始めた。自分の書いた草稿が、ゴードンの論文より劣ることを認めたのだ。
(2)評価する:ゴードンの論文の質の高さを評価することにより、会話に温かみを吹き込んだ。
(3)正反対のものを融合する:自分が執筆した草稿の質が低いことを認める一方で、研究自体は非常に優れていることを指摘した。
(4)価値観に訴える:論文が発表されれば、学界に大きなインパクトを与えると強調することにより、ゴードンの価値観に訴えかけた。
(5)成長へのパートナーシップを育む:自分を書き手として成長させる手助けをしてほしいと、ゴードンに頼んだ。
すべてのアクションは、まず内面のアクションとして始まる。内面で適切なエネルギーを高めるられるよう、自分の意図や感情、思考を方向付けるのだ。そのうえで、外面のアクションを取る。適切な表情、声の調子、言葉を用いて、ほかの人たちに接するのである。
もしジュリーが、外面でゴードンの論文を称賛することを決めたとしても、内面で怒りを抱いていたら、ゴードンはジュリーの嘘に気づいたかもしれない。ゴードンが気づかなかったとしても、少なくともジュリー自身は自分が嘘をついていると感じたはずだ。
内面のアクションは、外面のアクションに先立たたなくてはならない。メントラ・インスティテュートにおける筆者らの経験によれば、正しいことを述べたり、正しい行動を取ったりすることだけに注力するリーダーシップ研修は、往々にして、参加者に自分を偽っているような感覚を残してしまう。
煎じ詰めれば、このようなアクションは、私たちの行動の礎石ともいえる構成要素である。ごく少数のアクションによって、数え切れないほどのリーダーシップ行動が形成される場合もある。
これは、自然界の法則といえるだろう。外面には目がくらむような多様性があっても、その内面は限られた礎石で形づくられているのだ。無数の液体、固体、気体は、わずか118種類の元素でつくられている。無数の書籍や言葉は、英語であれば26種類のアルファベットで紡がれている。そして、数限りないメロディは、西洋音楽ではわずか12の音でつくられている。
このアプローチを実践するために、私たちに求められることが一つある。常に謙虚さを失わず、リーダーシップの面で大きな成果を上げているか否かにかかわらず、さらに進歩するためには、現時点では実践していないシンプルなアクションをいくつか行わなくてはならないことを認識する必要があることだ。