3. マネジメントシステムを構築する

 戦略とオペレーティングモデルが定まったら、無数にある日々の意思決定において、それらを実行していかなければならない。そのためには、マネジメントシステムが必要だ。

 このプロセスでは、実行の主要管理者がマネジャー役を務める。多数の人々が関わる複雑な戦略を実行する際には、ヒエラルキーが重要なツールの一つとなるからだ。

 近年、ヒエラルキーは受けがよいとは言いがたい。その一因は、トップダウンの戦略がうまくいかず、リーダーシップのネガティブな側面が広く知られることになった結果、あらゆるタイプの組織に対して信頼が低下していることにある。

 筆者らは、マネジメントへの新たなアプローチ(例:アジャイル、顧客からのフィードバック重視、従業員への権限委譲)は、トップダウンによる指揮統制型のマネジメントに対する当然の反応だと考えている。そうした旧態依然としたシステムを論理的に表したのが官僚主義であり、機能よりも形式、効果よりもプロセスへの高慢な執着と呼ぶのがふさわしい。

 その意味で、「官僚組織の行動を説明する最も単純な方法は、その組織が敵の陰謀によって支配されていると仮定することだ」という、英歴史家ロバート・コンクエストの「政治の第三法則」は、いまでも正しいといえる。

 とはいえ、筆者らは「ヒエラルキーやマネジメントの終焉」という考え方は行きすぎであるとも考えている。複雑な戦略には必ず、集団として調整を行うための組織や構造が必要だからだ。

 自己組織型のコミュニティや市場、そして、その結果生まれる集合知といった概念は、多くの成果を生み出すのに適切なモデルだとして筆者らは重視しているが、複雑な戦略を実行するのには向いていない。言い換えれば、ボトムアップのプロセスに頼っていては、司令官はノルマンディ上陸を成功させることはできないということだ。

 筆者らのアプローチは、戦略を個別の状況にうまく当てはめ、官僚主義を回避するための2つの重要な条件と、マネジメントのヒエラルキーとを組み合わせるものだ。

 ●スタッフにどのような権限を付与しているか

 戦略とオペレーティングモデルの狙いは、個々の従業員に何が期待されているか、そして求められている物事を達成するためにどのようにサポートされているかについて、明確な情報を組織全体に示すことだ。そのうえで、それらの目標や必要なアプローチを個別の事情に合わせて調整するために、従業員には大きな裁量が与えられる必要がある。

 優れたマネジメントシステムは、組織デザインに十分な説明責任と柔軟性を組み込んでいることを明示し、確約している。そうすることで「官僚主義の罠」を回避し、十分なレベルでの権限委譲が可能になるのだ。

 その一例が、リッツ・カールトンの有名な「2000ドルの決裁権」である。同社では、顧客の幸せのためならば、従業員は上司の判断を仰ぐことなく、最大2000ドルまで使える権限を与えられている。

 ●自己修正型のフィードバックを、いかにシステムに組み込んでいるか

 個別の状況が持つ重要性、そして集合知や顧客フィードバック、従業員フィードバックがもたらす価値から、エグゼクティブがそれぞれの展開を迅速に把握し、対応できるようなフィードバックループを構築する必要性が浮かび上がる。簡単に言えば、エグゼクティブは何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのかを、考えうる中で最も迅速かつ明確に理解し、ベストプラクティスをすぐに共有できる状態にあるべきだ。

 フォード・モーターを例に取ろう。同社の新CEOは、経営会議の場で問題が報告されず、オープンに検証されることも、深く議論されることもない企業文化に直面した。そこで、ビジネスレビュープロセスを導入すると、リーダーシップチームは力を合わせて、戦略の中でうまくいっていない側面に集中し、迅速かつ有効な形で対応するようになった。おかげで、実行の成功に向けた重要なつながりが生まれたのである。

* * *

 つまるところ、集団行動、すなわち大規模な協力こそが、人類が持つ重要な競争優位を生み出す。それは、フィクションをつくり上げ、それを現実に変えていく力だ。

 それを実現するためには、3つの条件が揃う必要がある。(1)優れた戦略、(2)適切な組織、(3)有効なマネジメントだ。これらの3つの要素が揃えば、人間の創造力は解き放たれ、力を合わせることで、最高の結果を達成することができる。それはつまり、夢の実現である。


“How to Move from Strategy to Execution,” HBR.org, June 20, 2022.