いずれの選択肢も成功につながる可能性を持っているが、ポーターは両者に同等の経済的な価値を、そしておそらく道徳的な価値も、認めていない。ポーターいわく、ほかのみんなと同じことをする場合、価格競争をしなくてはならない。言い換えれば、同業他社よりも効率性を高める方法を見出す必要がある。しかし、このアプローチでは、業界全体のパイを縮小させてしまう。言わば底辺への競争に血道を上げることにより、業界全体の収益性が低下することになるからだ。

 それに対し、相互依存的ないくつかの活動、すなわち賢明で、できれば複雑な活動の組み合わせを通じて、自社独自の強みを生み出すことにより、持続可能なポジショニングを確立できれば、パイを拡大させることが可能になる(こうしたことをバリューチェーンやビジネスモデルといった言葉を使って説明する論者もいる)。

 そのわかりやすい例が航空業界にある。ポーターの表現を借りれば、大半の航空会社が「ベストを目指して競争」し、非常に小さなパイを奪い合っているのに対し、サウスウエスト航空など、いくつかの航空会社は、まったく異なるアプローチにより、はるかに収益性の高いビジネスを築いている。そのアプローチは、賢明で効率性が高い相互依存的な活動の組み合わせを実行することにより、異なる顧客層(たとえば、これまで航空便ではなく、自動車で移動していた人たち)を獲得しようとするものだ。そうした方向性を追求することにより、航空業界の市場全体を拡大することができた。

 ポーターの論文「戦略の本質」は、すべての戦略家が読むべき力作だ。しかし、この論文で戦略に関する議論に終止符が打たれたと考えるべきではない。これ以降に唱えられた戦略に関するアイデアは膨大な数に上る、それらは次の3つのカテゴリーに大きく分類できるだろう。