・「新しいことを行うこと」を提唱するもの
・「すでに行っていることを強化すること」を提唱するもの
・「新たな可能性が出現するたびに反応すること」を提唱するもの

 新しいことを行うべきだと説く陣営には、ライバルの存在しない新しい市場の発見もしくは創出を目指すべきだとするチャン・キムとレネ・モボルニュの1999年の「バリュー・ブレークスルー・マーケティング」と、それをさらに発展させた2004年の「ブルー・オーシャン戦略」、アルビン・ロスの2007年の「『マーケット・デザイン』の経済学」、クレイトン・クリステンセンがマーク・ジョンソン、ヘニング・カガーマンと共同で執筆した「ビジネスモデル・イノベーションの原則」などの論文が含まれる。自社や業界のバリューチェーンを見直すことにより大変革を目指す戦略も、この陣営に分類できるだろう。ポーターの著作の大半に加えて、イアン・マクミランとリタ・マグラスの「差別化戦略策定への消費連鎖分析」などがそれに該当する。

 すでに行っていることを強化すべきだと説く陣営には、ベイン・アンド・カンパニーのコンサルタントであるクリス・ズークの「新たなコア事業を発見する法」、隣接領域への進出をテーマにしたズークと同僚のジェームズ・アレンの論文「成功パターンの展開力」、デイビッド・コリスとシンシア・モンゴメリーの古典的論文「リソース・ベースト・ビューの競争戦略」などが含まれる。

 この陣営には、競争への向き合い方をテーマにした多くの論文も含まれる。たとえば、ジョージ・ストーク・ジュニアとロブ・ラシュナウアーの「ハードボール戦略」と、その姉妹編である「カーブボール戦略」などがそうだ。また、リチャード・ダベニーの「ニューカマー撃退法」や、クレイトン・クリステンセンとマックスウェル・ベッセルの「破壊的イノベーションの時代を生き抜く」(破壊者の参入を受けて自社の既存ビジネスを断念するのが時期尚早かどうかを判断する方法を詳しく検討している)など、破壊者から自社を守る方法を論じた論文も、このカテゴリーに分類できる。

 新たな可能性にそのつど反応することを説く陣営こそ、最も新しい戦略理論だと思いがちだが、そうとは言い切れない。リタ・マグラスとイアン・マクミランが前出の論文「未知の分野を制覇する仮説のマネジメント」で、「仮説指向計画法」を提唱したのは、20年以上前のことだ。この陣営には、ティモシー・ルーマンの「リアル・オプションを戦略評価に活かす法」、デイビッド B. ヨッフィーとマイケル A. クスマノの「インターネット時代の競争戦略」など、柔軟性を重視する1990年代の古典的論文も含まれる。

 戦略プランニングのサイクルを継続することを提唱したマイケル・マンキンスとリチャード・スティールの論文「戦略立案と意思決定の断絶」も、このカテゴリーに分類できる。そして、スティーブ・ブランクの「リーン・スタートアップ:大企業での活かし方」のように、既存企業をスタートアップ企業のように経営する方法を論じた論文もこの陣営に属する。

 以上の3つの陣営の極めて多様な戦略理論を見れば、戦略は「誰も模倣できないくらい独創的なことを行う」ことと「ライバルとのパイの奪い合いに命を懸ける」ことの二者択一だとは考えにくい。戦略論という分野の多様性と複雑性は、競争が危険をもたらすだけでなく、幅広い機会を生み出すものでもあることに起因すると言えそうだ。

 テクノロジーが急速な進歩を遂げ、グローバル化が大きく進展し、変化のペースが猛烈に加速している時代にあっても、利益を上げ、ライバル企業に打ち勝ち、アダム・スミスの見えざる手をさりげなく押して、真に生産性の高い、高収益企業を築くための新しい方法は常に無限にあるのだ。

 

"What Is Strategy, Again?" HBR.org May, 12, 2015.

※本稿は2022年6月14日発売の書籍『HBR at 100』に掲出されているコラムを抜粋、翻訳したものです。