個々の戦略は異なるものの、これらの新たな戦略を巧みに用いている企業には共通する3つの重要な特徴がある。第1に、テクノロジー、事業戦略、業務遂行がほとんど区別できないほど密接に結び付いている。第2に、運転席にいるのは機械ではなく人間である。第3に、いまや業界を問わずすべての企業がテクノロジー企業であることを、彼らは理解している。
●いつまでもベータ版
いつまでもベータ版の戦略は、購入後も継続的に進化し向上していくソフトウェア対応型の製品・サービスを提供する。したがって顧客は、それらの価値と有用性が時とともに減るのではなく、高まっていく様子を体験する。
たとえば、テスラはほかの自動車メーカーと違い、毎年のモデルチェンジをしない。なぜなら一つのモデルを発売した後、それを継続的に改良していくからだ。車両の自律運転機能の向上、パフォーマンスの改善、安全機能の強化といったアップデートを通じて、購入済みの車が継続的に変化していく様子をテスラ車のオーナーは目の当たりにする。
クラウドおよび末端での車との接続を通じて、テスラはパフォーマンスを監視し、遠隔で診断と修理を行う。一例として、時折オーバーヒートが生じるモーターの不具合は、ソフトウェアパッチによって診断と修理が行われた。テスラ車のドライバーは、メーカーとの持続的なフィードバック・ループの中に置かれ、単に運転するだけでテスラのニューラルネットワークに人間の技能が伝達され、改良される。
その結果、車の価値と有用性が継続的に高まるという所有体験が生まれる。この体験は、顧客にとって製品の利便性と差別化の本質的な要素となるよう設計されている。顧客は実質的に、新たな改良のたびに大きな特権を持つベータユーザーなのだ。
シグニファイ(旧社名フィリップス・ライティング)は、同社の循環型照明を通じて、最も新しく優れたテクノロジーを顧客に提供し続けている。循環型照明とは、顧客の稼働時間とエネルギー需要に基づいて照明を提供する企業向けソリューションである。同社はドバイの全電力をまかなう発電所全体の照明を引き受け、同都市の照明関連のエネルギー消費を68%節約する成果を上げた。
これらの企業はテクノロジーと事業戦略を密接に結び付けることで、顧客と強固な関係を築いている。その基盤となるのは、顧客が今日購入するサービス体験が、明日には価値が高まるはずだという理解である。