●コ・ラボ
コ・ラボ戦略は、科学をはじめ知識集約的な分野において、人間主導・機械駆動による発見を通じて卓越した成果を生み出す。自動化と機械学習によって人間の知識を最高レベルで活用できるようになった専門家と知識労働者は、強力な技術プラットフォームを駆使して生産性を指数関数的に高め、価値を増大させ、高い参入障壁を築いている。
英国を本拠とするスタートアップのエクセンシアは、ケンタウロス・ケミストと呼ばれるAI駆動型の創薬プラットフォームを構築した。
ターゲットとする疾患を特定するために、同社は最初にディープラーニングのアルゴリズムを適用し、ほぼ無限に存在する潜在的な疾患候補を絞り込む。その後、同社の専門家たちが戦略を立て、それをケンタウロス・ケミストの「アクティブ・ラーニング」システムが実行する。このシステムはデータ効率の高いアルゴリズムに頼りながら、限られたデータポイントをもとに、創薬データセットの特定に向けて「学習」する。
創薬では通常、治療の新たなターゲットについて不明な点が多く、ビッグデータの機械学習アプローチに使えるような元データはわずかしかない。2020年にエクセンシアは、AIが設計した分子をつくり出し、ヒト臨床試験に参加した最初の製薬会社となり、2021年には別のAI設計分子で2番目の臨床試験に入った。
コ・ラボ戦略の効果を示す同様にみごとな実例は、モデルナとファイザー・ビオンテックによる、新型コロナウイルス感染症ワクチンの記録的な速さでの開発に見ることができる。
小さな歩みか、大きな飛躍か
いつまでもベータ版、必要最小限のアイデア、コ・ラボは、インテリジェント技術が根本から人間らしいものへと変化する中で生まれている大胆な事業戦略のごく一部にすぎない。しかし、テクノロジー駆動型の事業戦略は、自然に生まれるわけではない。先見の明のあるリーダーが必要だ。人々とテクノロジーを新しく人間的な形でつなぐ接点にチャンスを見出すことができるリーダーは、ほかに先んじて破壊的変化を起こし、未来をつかむだろう。漸進的な自動化の道を歩み続けるリーダーは、苦労することになる。
労働者も同じだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者ダロン・アシモグルと、ボストン大学の経済学者パスカル・レストレポは、自動化による労働者解雇に関する画期的な研究の中でこう断定した。「雇用と賃金を脅かすのは、『素晴らしい』自動化技術ではない。小さな生産性向上を生む『まあまあの技術』である」。まあまあの戦略についても、同じことがいえるのだ。
"How AI Can Make Strategy More Human," HBR.org, June 22, 2022.