第3に、企業は職場における女性従業員の役割と、女性が上級管理職に昇進できる道のりを検討すべきだ。ドブス判決は、男女同一賃金や、上級管理職、取締役への女性の登用など、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)におけるこれまでの進歩を吹き飛ばすおそれがある。出産や育児期に男女の賃金格差が拡大することはよく知られている。自分の会社で、子育て中の人が成功する余地をどうすれば創出できるか、もう一度考えてみよう。

 たとえばワークシェアリングを導入すれば、子育て中の従業員が短時間勤務でも、インパクトの大きい仕事を担当できるし、これまでと異なる復職ルートを設ければ、子育てに集中するために離職していた人たちが職場に復帰しやすくなるだろう。

 第4に、企業には、正直でオープンな会話ができるインクルーシブな環境をつくる責任がある。筆者らの同僚であるシドニー・ローチは、2020年のコロナ禍初期、CEOに新たに期待される役割ができたとして、「最高共感責任者(Chief Empathy Officer)」という肩書をつくった。妊娠する可能性のある人と、そのパートナーやアライ(味方)のために、コロナ禍の時のような思いやりのある環境を標準にしなければならない。妊娠が普通のこととみなされ、子育て中の人が直面する問題が悪いことや恥ずべきことのようにみなされない、インクルーシブな職場文化をつくるためには、組織のすべてのリーダーに果たすべき役割がある。

 第5に、長期的に雇用主は、自社の業務が果たせる役割を考えるべきだ。タラ・ヘルス財団が2021年秋に行った調査によると、「優秀な人材」の66%は、州法で中絶を事実上禁止するテキサス州で職を得ることを思いとどまり、64%は同様の州法があるいっさいの州で求人に応募しないと答えた。こうなると企業は、本社や新オフィスを設置する場所を考え直す必要に迫られる。

 妊娠中の従業員の一部は、万が一の時に備えて中絶を規制する州への出張に懸念を示す可能性があることも、企業は認識する必要がある。企業は出張に代わる柔軟な選択肢と「理由を聞かない」という方針を打ち出すべきだ。また、ロビー活動費がどのように使われているか見直し、従業員の価値観やニーズと矛盾することに政治資金が使われていないか精査すべきだ。

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 この問題に関する企業へのアクションの呼びかけは、その範囲も規模も、いままでとはレベルが違うものに感じられるかもしれない。しかし、2020年のジョージ・フロイド殺害事件後の企業の行動と同じように、ドブス判決は企業にとってのターニングポイントだ。ドブス判決が打ち立てた判例を考えると、今後は中絶以外の権利も奪われることになるかもしれない。

 企業は、同性婚から避妊具の使用まで、いまは判例で確立していると思われていることが覆される可能性を見越して、みずからの姿勢、そして行動計画を検討しなければならない。リーダーにとって、これは大きなチャレンジであり、正しく対処するためには、時間と資源と先を見越した戦略的計画が必要だ。しかし、それに取り組んだ企業は、会社の評判と従業員の忠誠心、そして職場における女性の経済的パワーから、報いを受けるだろう。

 

"Roe v. Wade's Demise Is a Turning Point for Corporate America," HBR.org, June 30, 2022.